リミット THREE 弐
痛い…なんなの…。
リノは自分が揺さぶられている事に、ぼんやりと腹を立てていた。
荒っぽいわね…。
しかし、それも束の間。目覚め始めた意識は瞬時に異常を感じとり、リノはガバっと身を起こして顔をしかめた。
「おい!大丈夫か?」
「ん…痛っ!」
椅子に腰掛けていた筈が随分なげ出されていたことに気付く。
立ち上がり、左の膝が悲鳴をあげた。
その時になって、初めて自分を起こしていたのが男子生徒だと気付いた。
「あの…あなた…」
呂律が回らない。
「俺、たまたまここ通り掛かってさ…。俺も廊下でしばらく気を失ってたらしいんだ。」
体操着のまま、彼は静かに…しかし有無を言わさずリノを椅子に座らせた
「…ありがとう」
まだ茫然としていたが、ようやく落ち着きを取り戻しはじめていた。
俺も、と彼が言った所を見ると、私は気を失っていたわけだ。
リノは改めて、辺りを見渡した。
そして、思わずギョッとして息を呑んだ。
「嘘…」
外は…紛うことなき闇だった。
それも、夜の比じゃない…何もない、真の闇。
桜も、校庭も、何もない暗闇。
「何…これ。なんなの」
痛む足も構わず、窓に駆け寄った。
「走るなよ!」
リノは、大きな眼を更に大きく見開き…振り返った。
窓に広がる闇を見続ける事で、せり上がるパニックを押さえつける為に。
「どう…どういう事?」
彼は成すすべなしと言いたげに首を振った。
「解らない。…俺だってさっき起きたばっかりなんだぜ?」
「そう…か。そうよね。私、パニくってる。ごめんね。ちょっと…なんて言ったらいいか解らないけど…」
意味のない言葉が意志と無関係に滑り出る。
落ち着きなさい!
馬鹿みたいじゃない!
心にカツを入れ、深呼吸してから…元の椅子に座り直した。
「あの…ごめん。もう大丈夫。とにかく…」
「自己紹介しないか?」
彼はほんの少し笑って、リノを見つめた。
リノもつられて微笑し、いいよ、と頷く。
「私…大橋リノ。大きいに渡る橋。リノはカタカナ」
「俺は立石翠。こう書くんだ…」
教室の後ろにある小さい連絡用の黒板に、名前を書いた。
「ミドリなんて名前、最悪だろ?女みたいで」
決まり悪げに短い髪をかく彼に、リノは首を振った。
「あら、そう?翡翠の漢字なんて綺麗じゃない。贅沢よ。私なんてカタカナなんだから…」
翠は笑って、それから静かに呟いた。
「さて…行こうか」
感想
感想はありません。