一陣の風 〜 起
「一本〜っ! それまで」
主審の声が高らかに試合の終わりを告げる。
一拍置いた後で、観衆のどよめきが会場を震わせていた。
「猛、やったな!」
「木村、おめでとう!」
「おめーなら遣り遂げると信じてたさ!イヤッホーッ!」
「先輩!…尊敬します!」
同じ道場の師範や仲間達の荒っぽい祝福にもみくちゃにされながら、木村猛は日本一になった感慨を噛みしめていた。
フルコン系空手の全国大会に向け、ひたすら稽古に明け暮れた日々……
今、その努力が実を結んだのである。
まさに感極まった猛は、仲間達に泣き笑いを見せていた。
数日後
「ねぇねぇ、あんた日本一になった木村猛さんでしょ?」
猛は道場からの帰り道、一人の女の子に呼び止められた。
「あぁ、そうだけど…何か用?」
「あたしと、しない?」
「え… そ、その、君と?……」
みるみる真っ赤になっていく猛を見た女の子が、こちらもうなじまで赤くなりながら声を張り上げる。
「バ、馬鹿!…何勘違いしてんのよこのヘンタイ!」
「…………」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせた猛は、胸にグッサリ突き刺さった台詞をとりあえずスルーした。
「何だよいきなり… まさか勝負しろって事?」
「そっ♪ あたしは城崎涼って言うの。 強い男探してたんだ」
涼と名乗った娘は黒の道着を身につけていた。
上背は有る方で、どちらかと言えばきゃしゃな体型である。
サラシを巻いていない胸の谷間に、レザーストラップの先にぶら下がったペンダントトップが光っていた。
「……ちょっとォ〜アンタどこ見てんのよ全く!
これだから男は……」
「お望みの勝負は? まさかゲーセンでバトルって落ちはないよな」
自分の実力を承知の上で挑んできた城崎涼に、猛は興味をそそられていた。
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