リミット THREE 七
チャイムが三回鳴るまでに。
ここから……逃げる。
リノと翠は即席の武器を手に、顔を見合わせた。ガムテープで固定されたガラスの切っ先が、明かりに煌めく。
…その明かりに、課せられたリミット。
二時間。
リノは走りやすいようスカートを腰で折り、短くした。いつもこれくらい短くした子達を寒そう、なんて見ていた頃が懐かしい。
左の膝は腫れていたが、ちぎれても、この先動かなくなっても、走るつもりだった。
もう翠に迷惑はかけられない。
「準備は?」
「万端」翠が言う。
二人が慌ただしくまとめた作戦はこうだ。
教室から二人同時に走り出て、翠が隣の教室に行き電気をつける。
リノは翠の背後を守って教室に飛び込む。
影が来たら声を殺し、去ったらそれを繰り返す。そして階段前の教室にたどり着いたら、一気に走り抜け階段を背にして左側の教室に飛び込み電気をつける。
上手くいこうがいくまいが、やるしかない。
あいつに捕まって無事でいられる筈はない。
予測不能の自体がおきたら…その時かんがえる。つまり、かなり行き当たりばったりなのだ。
「行くよ!」
声を殺し、二人は鍵の壊された扉に耳を押し当てた。
空耳かと疑うほど遠くでか細い金属音がする。
空耳ではないことは、二人とも知っていた。
翠はソロリ、と扉を引いた。…明かりが細長い光の帯を作った。
二人は一気に、走った。
ギギギーッッという自転車のブレーキ音のような音が、早くも迫っていた
隣の教室まではほんの数メートルだろう。
だが、リノにとっては一生に等しい数秒だった。
翠は一瞬でスイッチを探し当て、希望の輝きがあたりに満ちた。
リノがほっとしたその背後で、憎しみに満ちた咆哮が学校を震わせた。
「怒ってる!」
翠はリノの武器のない手を強く握った。
「ああ。相当キテるな」
閉めた扉の向こうで、それは暴れていた。
二度も取り逃がした苛立ちからか、声を殺しても去る気配がない。
「どうしよう」
「グズグズしてるわけにはいかないだろ」
翠は汗で滑る箒の柄を握りしめた。
「リノ、合図したら開けてくれ」
「…翠、だって…」
翠はやり投げの選手のように構える。
「いいか…今だ!」
影がユラリ、とすりガラスに映った瞬間、リノは扉を引き開けた。
翠は相手を見る前に、尖らせた柄の先端を突き出した。
ギギイイィィ
影が叫び、それが見慣れた姿である事に気付いた
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