リミット THREE 11
何も見えない…。
目と鼻の先に教室が見えていたのに、全ては闇に消えてしまった。
いや、消えたように見えただけだ。
リノは満身創痍の身体を引きずり、その頭はスイッチの事でいっぱいだった。
お願いします…神様!
私に翠を助けさせて下さい!
食いしばった歯で、唇を傷つけたことさえ、今のリノは気付かなかった。床にピタリとくっついて手を突き出しながら、教室を探っている。
手に縛り付けたままのガラスが、リノリウムの床をおそらく傷だらけにしているだろう。
リノは金属音が近づいて来ない事を祈りつつ、時折なにかを投げるような振動が起こる度、翠の無事を願う。
自分に出来ること。
しなくてはいけないこと…明かりを…捜す!
リノは暗闇のなか立ち上がり、よろめきながら手探りを続けた。
指先が、壁に触れた。
手を押し当てながら、横へとずれていく。
とうとう、求めていた扉の感触!
引き戸を開け、壁づたいにスイッチを捜す。
早く…早く!
苛立ち、焦りながらそこかしこに触れた。
わからない…どこなの!
ギ…ギギ……
影が近づいてくる。
あいつにはこっちが見えているんだ。
心臓の音が高まり、冷や汗が背中を伝う。
今、襲われたら…。
二人とも、アウトだ。
翠…!大丈夫よね?
お願い、お願い、お願い……
誰に祈っているのかわからない。
唇から自然に漏れた呪文のように、リノは呟き続けた…。
お願い お願い お願い
お願い お願い ……
プラスチックの突起に触れ、指で弾いた。
お願い!!!
パッと明かりが瞬いた。
整然と並んだ机が目に飛び込み、突然の眩しさに戸口で立ち尽くし…、振り向いた。
「翠!」
喉が割れる程の絶叫。
リノは薄い光に照らし出された階段に一歩を踏み出した。
影がいた。
喉仏に箒の柄が突き刺さりながら、呻いている。足の骨が折れたのか、右足の膝から下が不自然な方向に曲がっている。
肉の臭いに引き寄せられる獰猛な犬のように、リノに向かってギクシャクと歩を進めていた。
翠…翠は…。
近づく影のシャツに自らの黒い血液が飛び散り…また、それとは明らかに違う、深紅の血が腹部を下半身を、染めていた。
嘘…翠……嘘、嘘…
動くなかった。
影が…近づく…。
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