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リミット THREE 12

[527]  ゆうこ  2008-04-08投稿


「馬鹿…か…お前」


棒立ちになっていたリノを、翠が抱え込み…動きが鈍いながらも迫る影を断ち切るように扉を閉めた。

影の脇を擦り抜け、よろめいた翠は、力を使い果たしたかのように床へ倒れ込んだ。

「翠…」

リノはひざまづき、虚ろに見上げた翠を見下ろした。

翠の右腕は、ないも同然だった。
片目は開かれず、噛み付かれ頬は今もなお血を流し続ける。

「あのやろ…俺の腕食べやがって…腹…壊すよな…ざまあ…」

ペッと血痰を吐き出し、ニヤッと笑った。
いや笑ったつもりだったのだろう。

「翠…喋ったらダメ」

声が、遠くから聞こえてくるみたいだ。
リノは指の残っている翠の左手を握った。

「私が…ごめん、翠、私のせいね」

翠は答えず、咳こんだあと独り言のように話始めた。

「大橋リノさん…俺さ…君が好きだった」

「え…?」

翠は続ける。

「リノが教室にいるのに気付いて…告白するチャンスだと思って…俺、一年の時から…ずっと…」
翠の身体が震え出す。
たくさんの血液が流れ出したショックで氷のように冷たい。

「翠、わかったから、もういいから」

翠は掠れた声で話す。
使命とでもいうように、決然と。

「二年になったら…告白…勇気でなくて…俺、リノの笑顔が…」

翠は言葉を止め、にぎりしめたリノの指を微かに握り返した。

そして微笑んだ。



「泣くなよ、会長…」




そして、翠は黙った。


翠の片目は見開いたまま光を失った。




翠の呼吸は止まり、リノは一人になった。




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