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奇妙な時空−第5話

[345]  あきは  2008-04-29投稿
私は映画館で映画を観るのが好きだ。家で観るのとは違う趣があると私は思う。
 最近、家の近くにある郊外型のショッピングモールにシネコンができた。ところが交通には駅も遠く、不便な位置関係な立地だ。なのでいつ行っても良い席で映画を観れるので私にとっては大歓迎だった。

その日の目的はある有名俳優のでる映画。チケットの半券をポケットに指定のスクリーンを目指す。相変わらず客足は少なめ。館内にはまだ自分一人しかいない。前にも数回一人だけで観たことがあるから、もしかしたら今回も貸し切り状態かもしれない。

やがて一人しかいないままの館内が暗転する。予告が始まった時、不意にコツンと椅子に振動がはしった。
まるで誰かの足が当たったような。

また、コツン。

でも、ここには私以外誰もいないはずだ。

また、コツン。コツン。

意図が感じられる振動が気になって、映画に集中出来ない。いらつくのもあるが、それ以上にはっきり言って怖い。

コツン。コツン。コツン

怖いがこれ以上堪えられない。思い切って勢いよく私は振り返った。

…………当たり前だが誰もいない。
(よかった……)
ふぅと息をついて前に向き直った私のほんの数センチ。
真正面に顔があった。
瞬きもしない眼を剥いた真っ白な顔。
私は見つめ合ったままズルズルと椅子に落ち込んだ。

悲鳴すら上げる隙も見せず、ふっとその顔は消えた。後は変わらない独り貸し切りの映画スクリーンだけが残った。


………独りで来るのは止めよう。私はずり下がったまま、そう思った。

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