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失われた記憶?

[337]  七瀬凪  2006-05-06投稿
ポツ…ポツ…ポツ…ザー…‥。

個室の窓から外を覗くと、まだ午後二時過ぎだというのに、大きな灰色の雲が空いっぱいに広がり、大粒の雨が音を立てながらふり続き、時折稲妻が光る。

「今日は、何か嫌な予感がするなぁ…。」

僕は、窓辺から離れると小さく呟く。

「唯(ゆい)…。早く、目を開けてよ…。」

そう言いつつも、彼女が目を覚ます日は来るのだろうか…と、思ってしまう自分がいる。
だが、そんな考えはすぐに払いのけた。

数時間後、僕はいつの間にか眠ってしまったみたいで、あたりはすでに真っ暗だった。
眠い目をこすりながら、急いで帰りの支度をしていると、突然、ビューッという音と共に閉めたはずの窓があき、冷たい風が吹き込み、カーテンがヒラヒラとまった。

「・・・閉め忘れたのかな。」

僕は、再び窓に近付き、窓を閉めようとした。

…と、その時背筋が凍るような感じがした。


誰かが、窓辺に座っているのだ。

「やぁ、こんにちは。
アンタさ、毎日祈ってるけど、そんなにこの女助けたいか?」

愛想のない笑顔を振りまきながら、僕に話しかけた。

「助けてやろうか?」

その誰かが、にやっと笑うのを感じた。

僕は、逃げ出したい衝動をこらえ、半信半疑で聞いてみる。

「あの…。
本当に…彼女を助けられるんですか…?」

「ああ、もちろん。そんなのたやすいことさ。
ただし、条件がある。」

「条件…?
…なんだっていい!唯が…、彼女が助かるなら!」

「ほう…。」

窓辺に座っている誰かが、さらににやっと笑うのを感じると、暗がりから、やっと姿を現した。
とたんに、不思議と恐怖心が消えた。
恐怖をこえて、恐れることとは、どういうことなのかも、分からなくなってしまったのだ。

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