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凛の光 [春]

[667]  朝倉令  2006-05-06投稿



「おい、健介!喧嘩だってよ。 見にいかねェ?」


「何ィ〜?それ賛成ーっ!俺も参加するかな」



この種の『イベント』が大好きな明石健介は、悪友の木島聡の誘いに即座に反応した。





「おほーっ、やってるやってる。 おバカ共が」


「アハハ、見せ物になってやんのあいつら」



野次馬が集まっているのも目に入らない様で、体格のいい男たちが派手にガチンコの勝負をしている。


その時健介は、騒ぎの中、一人ベンチに腰掛けていた女の子が気になった。



「う〜っ…………」



唸るような声を上げているその娘は、傍らに小型のトランクを置いて行儀よく座っていたのだが、どうにも様子がおかしい。



(結構美人だけど、頭のネジぶっ飛んでるのかな?
春先だし……)



本人が耳にすれば激怒しそうな事を健介が考えていると、娘はスッと立ち上がり、殴り合っている男達の方へつかつかと歩み寄っていった。



「お、おい、ちょっと待てよ! 危ないだろ」


「何ですか、あなた方は!全くなっておりません! ……そんな攻撃で敵が倒せると思ってるんですか!」


「はァ?……」



凛、と響いた娘の一喝に、野次馬をかきわけて前にでようとした健介は、その場にいた連中と共に意表をつかれて間抜けな声を出していた。



驚いて殴り合いをやめた男たちに『突く時はこう、蹴りはこう腰を入れて』などと手取り足取り教え始めるに至って、野次馬の間から爆笑の渦が巻き起こっていた。



「あ、あのーっ、お嬢さん、 俺たちもう、帰りたいんだけど……」



鼻血を流した男がバツの悪そうな顔で言うと、周囲からまた大爆笑が起こる。



「うひゃひゃ!あのお姉ちゃんもう、サイッコー!」


まさか、数ヵ月後にこの娘と関わりが出来ようとは夢にも思わず、明石健介は連れの木島聡と二人で腹を抱えて大笑いしていた。






夏へつづく

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