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凛の光 [夏]

[723]  朝倉令  2006-05-07投稿


「わりィ、夕べバイクいかれちゃってさァ。 今日はイサオの車にしようや」


「お? 別に構わないよ、俺は。 座れるだけ楽でいいかもな」



遊び仲間の木島聡が、野口功の愛車で現れた。


明石健介は乗せてもらう立場にあるため、特に異存はない。



「バイクってさァ、走ってりゃ涼しいけど信号で停まった時なんか、ヤローにしがみついてると悲しいよな ……殊に夏場は」



「……俺も全く同感〜。  あ〜あ、出来れば女の子にしがみつかれてーよ」



揃いもそろって女っ気ナシの三人組であったが、そのうち深紅の物体が高速で近づいて来たのに気づいた。


「おい、かなり飛ばしてるみたい‥」


クワアアァ――ッ!!


ウワンッ!クオォー………


健介が喋りかけた時、超高回転のエンジン音が窓から飛び込んで、続く声をかき消していった。



「何よ、アレ?……」


「真っ赤なバイク…だったよな?」




そこで、それまで黙っていた野口功が硬い表情でボソッと言う。



「出たな、化け物が……
 あれはドゥカッティ・デスモ・クワトロってバイクだよ。
城崎凛(りん)って女のマシンだ」


「え?女かよ!」



健介と聡は、異口同音に意外な、と言いたげな声を上げる。






「あれ?さっきのドゥカッティが停まってるぞ……」


いち早く車を降りた健介が深紅のマシンに向かっていく。



そこにはヘルメットをシートに置いて、ティーカップを手にした娘が寛いでいる。



「ちょ、ちょっと健ちゃん……」


「イサオ、どしたん?」



かなり慌てた様子の野口功に、聡が問い掛ける。



「いや、言い忘れたんだけど、『化け物』はバイクじゃなくて、女の方なんだ」

「何だってェ?」






(どっかで見た顔だよなぁ   …………あ!)



そこで悠然とティータイムを決め込んでいたのは、春先に見かけた『喧嘩の邪魔』をしていた、あのユニークな娘に間違いなかった。


こちらに気づいた娘、城崎凛は健介にニッコリほほ笑みかけてくる。



「バイクがお好きなんですか?」


「え、あの……」



健介は一瞬返事に困った。





つづく

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