凛の光 [夏]その二
「うん …… バイクは勿論好きだけどさ。 君、春先に喧嘩してた奴らをからかってなかった?」
「春に?…… ああ、あれの事ですか。 フフッ‥あの時は大真面目に教えて差し上げたんですのよ?」
超過激なライディングとは一変して、猫のような目を細めながら城崎凛は穏やかな笑みを浮かべている。
「俺は、明石健介。 君は確か…城崎凛さんって言うんだよね?」
「なぜ、私の名を?……」
笑顔をスッと引っ込めた凛は、瞳に強い光を見せて身構えた。
「…もし、ストーカーだったとしたら、タダでは済みませんよ……」
「ち、違う違う! 車好きのダチが教えてくれたんだよ、ほら、アイツなんだけどさ」
凛が放った、一瞬背筋がゾクッとする程の強烈な殺気に、健介は慌てて否定していた。
「皆さんもいかがです?」
これまた見覚えのある小型のトランクからカップを取り出した凛が、三人に紅茶とマドレーヌをすすめてくる。
先程の誤解も解け、四人はしばしお茶会を楽しんでいた。
そこで凛が、とある武道の流派の後継ぎとわかって健介たちも合点がいく。
「なるほどねェ……さっきはすっげぇ迫力だったからな」
彼女がしつこく絡んできた暴〇族のグループを、単身で叩きつぶしたという『伝説』の謎も半ば解けた訳である。
「私、曲がった事は見過ごしに出来ない性分なんですよ」
そう言って穏やかに微笑んでいる凛を眺めながら、男どもは内心冷や汗をかいていた。
(姫のご機嫌をそこねたら ……あの世行きか)
秋へつづく
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