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遺書−私と彼女という現象−

[301]  あきは  2008-05-01投稿
−第十一話−
 『A』は、狂気じみた眼で私を見ながら微笑み言った。「愛してるからこそ、尚更憎いし、ただですますつもりはない。」と。「死体は彼に見つけさせたい」と。

「でもそれだけよ。後は何も彼には残さない。」
「残さないって……?」
『A』の瞳は、いつの間にか深まった狂気でギラギラと輝いて見えた。
「彼には傷だけを残してやるの。傷と怨みのこもった手紙だけ。」
くすくすと『A』が笑い声を立てる。私は恐怖に満ちた心で『A』を見つめた。

人は何処からが正気で、何処からが狂気なのだろうか。何時から『A』はこの狂気に蝕まれ始めていたのだろう。『A』の狂気は酷く危険な気配があった。

「だからって自殺なんて…。」
「あら、彼を殺すよりはいいでしょう?」
平然と『A』が言ってのけて、私は絶句する。確かに彼女の看護師としての知識があればどちらも可能なのだ。
私はそれ以上の言葉を失った。『A』は狂気の笑みを浮かべたまま遠い眼をした。
「保険金や貯金も彼には渡らないようにしてあるし、勿論納骨も拒否する手紙は書いたわ。」
用意周到な『A』の言葉は、今までの彼女には有り得ないものだった。

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