凛の光 [秋]
明石健介は、一軒のCDショップから出てきた女の子に目が止まっていた。
「あれっ、おーい、凛さーん!」
「?…………」
こちらを見た娘は、『あんた誰?』とでも言わんばかりの訝しげな表情である。
(う…… もしかして忘れられてるとか……)
健介がちょっとヘコんで立ち去ろうとした時、
「ちょっとォ!待ちなさいよ」
娘に行く手を阻まれた。
「アンタお姉ちゃんの何?…彼氏にしては今イチ弱そうだし」
「へ? ……今、お姉ちゃんって言わなかった?」
「そっ♪ あたしは双子の妹で涼っての。
お姉ちゃんは今頃、紅葉の中をバイクでブッ飛んでるはずだよ」
「あっ!たけちゃ〜ん♪」
「おい、あまりくっつくなよ。人が見てるぞ?」
(おおーっ!全日本チャンピオンの木村じゃん!)
凛の双子の妹、涼がじゃれついているのはフルコンタクト系で勇名を馳せた、空手の木村猛であった。
「初めまして、ご活躍いつも拝見してます。
…確かに、こんな強い彼氏がいればね……」
苦笑する健介に、頭をポリポリかきながら猛が言う。
「こちらこそ、どうも。
いやぁ〜、恥ずかしながら俺と涼は互角の勝負でね。 初めて立ち合った時は、ものの見事にやられたよ」
「ええ!マジすか!」
「うふふっ、ついでに言うとォ、二人ともお姉ちゃんには全っぜん歯が立たないのよねーっ♪」
「…………」
明石健介は、友人の野口功が、いみじくも凛を評して『化け物』と呼んでいた訳をジワジワ実感していた。
「まぁ、ヒマラヤ並みに高い山だけど、いつかは越えてみせるよ」
木村猛が爽やかな笑顔で宣言するのを聞いた健介は、なぜか凛の穏やかなほほ笑みを思い浮かべていた。
冬へつづく
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