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幼い記憶。

[353]  やえ  2008-05-03投稿
血まみれの手を握ってくれたのは、アンタだった。


「汚れるよ」

「…べつにいい」


ぶっきらぼうに言い捨てると、アンタはあたしを助け起こした。


「……服、汚れるよ」

「べつにいいって言ってんだろ!」


次の瞬間、アンタはあたしを抱き締めた。


温かかった……。


アンタの手が不器用に背中を撫でるのを感じたとたん、両目から涙が溢れだした。


「泣くな」


アンタはあたしの頭を抱いた。あやすように体を揺する。あたしは壊れた水道管みたいに涙を流し続けた。

あたしは言った。


「……あたし、ヤだ。アンタの手、汚れちゃう……」


キレイな手が。

憎しみと痛みの赤に。


アンタは笑った。


「手なんて洗やあキレイになる」


何気ないその言葉が。

どれだけあたしの心を救ったか。

アンタは今でも知らないだろう。

知ったところで、いつもとおんなじ態度を取るんだろう。


……アンタの事が好きだ。


愛しくて愛しくて、胸が破裂しそうなくらい、想いでいっぱいになる。

ありがとう。

本当にありがとう。


――あたし、アンタに会えて、よかった……。


悲しみが終わりを告げた。


血まみれには変わりない。あたしはこれからもこの道を一人で歩くのだろうけど。


もう一人じゃ、ない。


アンタを巻き込ませはしない。ただ、あたしから離れすぎないで。

手が届く距離で、いつまでもあたしの事を――。


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