三十一文字の罪と罰
宛て名なき便り書きたし便箋に罪の一字と愛の一字を/鬼となり阿修羅となりて生きたしや両手につかむ格子に誓い/我こそは世代の罪をうたにする無知なる者の魂に触れて/約束とゲンマンをした小さき手父親を待つ時間の長さ/消してなを壁に向かいて黙想の中から得たる切なる思い/陽のあたる畳に小さな窓ひとつ影を残すは格子が二本/父の死を近いと知らさる面会で我はたまらず泣きじゃくりけり/父死すの知らせを聞いて涙する数えきれない不孝思えば/父逝きて天が降らした涙雨われ泣きぬれることも叶わず/この世ではたった一人の父親の死にめに逢えぬ監獄の夏/生きたいと死にたくないと呟いた父の最期の言葉に泣けり/絶対の愛など俺は信じぬと叫びし我を愛する父よ/さよならの言葉も言えずうつむいた父の涙に覚悟を感じ/悲しさを言葉にできぬもどかしさ激しい思いは胸にあるのに/父死すの訃報知らせる鬼看守目にはうっすら涙を浮かべ/罰棟は一灯の元にその罪を悔ゆると言ふか冬の黄昏/今生の別れとなりぬ面会の父の涙をわれは忘れず/囚友は青い瞳の異邦人黒い瞳に交じる哀しさ/親鸞(しんらん)が救われるべきは悪人と教えにあるは胸にのこりて/人の世の悲しき桜しだれけり儚き運命(さだめ)花の雨降る/目つぶりて獄舎(ひとや)の呪縛逃がれけり修羅なる我の底辺を見て/離別せし子供の頬に触れた日々思いだしては涙こぼれる/限りあるこの方円の窓ひとつ空の青さをこの手に握る/不自由なる己(おの)がこの身の限界は人を生きぬく迷いなるかな/白き龍われの体を貫きて聖なる汚れ赤き血となる.
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