朝野と夢野──本来の自分──7
夜、ビルの屋上に突風が吹くと手に持っていたノウゼンカズラの花が、勢いよくまるでフリスビーのように十メートルほど前方の宙に飛んでいき、それから旋回し少しだけ戻ってくると、急速に力を失った。ぼくは、反射的に後を追っていった手をゆっくりと引き込めながら、心の中で「もう二度と帰ってこないんだ」と、確かめるかのようにささやいた、「鮮やかな色彩も、褒めることのできない臭気も」。そうして、午前中の残暑の熱が冷めるか冷めやらないかのただ中に、花は人知れず風に翻弄(ほんろう)されて落ちていく。それをぼくは、憎々しくも心苦しくも感じながらも、泰然として見送っている。
おわあ! なんだ、なんなんだ! 気がついたらどこやらの屋上のフェンス先で今にも飛び降りようとしている! しかし、おれはあのとき帰ろうとして・・・・・・。いや、これじゃあまるで世にも奇妙な物語だあ!──おう、そうだ、とりあえず二三歩下がろう。なんたっておれは自分でもまあまあ立派な人間だと思うし、どこそこからくる風の便りによると、おれのことを「追従」とか「歩く屍(しかばね)」とか「走る肉」とか「人のものに限って鯨飲馬食」とか言っている不届き者がいるみたいだけれども、そういう醜聞はおれにはまったく聞こえてこない。で、おれはぜったい自分の耳がおかしいだなんて思わない! おれの耳にはどうも、その波長はしっくり来ないのだ。
おわあ! なんだ、なんなんだ! 気がついたらどこやらの屋上のフェンス先で今にも飛び降りようとしている! しかし、おれはあのとき帰ろうとして・・・・・・。いや、これじゃあまるで世にも奇妙な物語だあ!──おう、そうだ、とりあえず二三歩下がろう。なんたっておれは自分でもまあまあ立派な人間だと思うし、どこそこからくる風の便りによると、おれのことを「追従」とか「歩く屍(しかばね)」とか「走る肉」とか「人のものに限って鯨飲馬食」とか言っている不届き者がいるみたいだけれども、そういう醜聞はおれにはまったく聞こえてこない。で、おれはぜったい自分の耳がおかしいだなんて思わない! おれの耳にはどうも、その波長はしっくり来ないのだ。
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