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宝物は、虹の彼方に

[308]  あや  2008-05-11投稿
3日続いた鬱陶しい雨が上がり、快晴の空が広がる。病室の窓から、大きな虹が見えた。

「虹の向こう側には宝物がある」子供の頃に聞いたことがある。

私は別に信じていたわけではないけど、何だかワクワクとこみ上げてくる好奇心に心臓が躍る。
虹の彼方を見つけたら、何だか願いが叶うような気がした。

私は腕の点滴を引き抜き、パジャマを着替えた。面会謝絶の病室から顔を出し、辺りを確認して早足で歩き出す。

廊下を行き交う病人の間をすり抜けて、病院の玄関が近付く度に自然に小走りになっていく。

玄関から外にでた!!

何年かぶりに出た外の世界は、眩しかった。軽い立ちくらみを覚えて立ち止まったが、私は空を見上げてまた歩き始めた。虹を目指して。

今頃病室をみた看護婦さんは、私が居なくなったから、慌てて探し回ってる頃かなぁ?

どうなっても構わない。私はそう思っていた。

私の命はあと何日もつかわからない。みんなは隠すから知らないふりしてたけど、癌が再発した時点で本当は助からないって気付いてたんだから。
どうせ死ぬなら……

まだ少ししか歩いていないのに息切れがする。私はいつからこんなに弱くなったんだろう。情けなくて涙がでる。

虹は、病室でみた時より薄くなってきた。まるで私の命みたい。考えたら悲しくて何だか少し笑えた。

急がなきゃいけない。

歩道橋を渡り、交差点を横切って虹のかなたを探す。

私には、かつて結婚の約束をした彼がいた。好きで仕方なかったけど、私は病気の再発と同時に別れを告げた。
嫌いになった。なんて酷いこと言って彼を傷つけたけど、本当は好きで仕方なかった。彼が帰った後には涙が止まらなかった。

本当は彼と結婚したかった。プロポーズをくれたあの夜は私にとって最初で最後の幸せだった。

目の前がクラクラする。少し息が苦しい。

ああ、私はこのまま死ぬのかな。

私は薄れてゆく意識のなかで、私は分かった。私は、生きたかったのだ。私の宝物は、命。

自然に涙が頬を伝いこぼれ落ちた。

ふと、目の前が明るくなる。虹の彼方が見えた。その下には………彼が見えた気がした。

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