落花流水、6話。
俺は、見届け屋だ。自殺すると決意した者の覚悟を、末路を見届ける。どのような事実があり、どのような経緯があって死に至るのか。それを見届けるのが、俺の仕事。つまりは、自殺幇助。この国では立派な犯罪の一つだ。
そんな犯罪に手を染めた事の発端を、俺は覚えていない。何がどうしたのかは分からないが、気が付けば此処でこうやって、名も知らぬ誰かの死を見届けている。
今回の仕事は前回の彼女と違って醐鴉からの斡旋で、奴曰くそれなりに大きな仕事……らしい。俺としては仕事に大も小も無いのだが、成る程、報酬を見れば奴がそう言ったのも頷ける。新たに記載された通帳の残高は0が七ツと言う出鱈目な数字だった。何か裏が有るな、と踏んだ通り、今俺の目の前で出来の悪いてるてる坊主の様に揺れている彼はお偉い政治家さんの秘書で、何やら失態を犯したそいつの身替わりとして首を吊らされる羽目になったらしい。
胸糞悪いな、と嘆息。別に、蜥蜴の尻尾切りが気に障ったわけでは無い。それに俺が付き合わされたことが、苛立たしい。要は彼が怖じ気づいて逃げ出さないように見張るのが今回の俺の役目で、見届け屋の業務など先方にはどうでもいいことだったのだ。馬鹿みたいな報酬にはきっと口止め料も入っているのだろう。
切り捨てられる運命だというのに、尽くした相手からは何も無く。ただ見知らぬ誰かを寄越されて、それでお終い。
は、と口から吐息が漏れた。人の死とは、生とは、俺が見届けているものは。
なんて、無益な――――
がちゃり、と。ドアが開く音がしたのは、その時だった。反射的に振り向き、ドアを開けた人物を確認する。見れば重厚な造りのドアが僅かに開き、そこから小さな人影がひょこりと顔を出した。今は夜の上に、この部屋は明かりが点いていないため顔の造形や服装等細かい部分は分からないが、それは明らかに小さい。身長は百五十有るかどうか。はっきり言って、子供である。その場から動かずに動向を探る俺とは対象的に、人影は俺の許に――いや違う、天井からぶら下がったままの彼の許に歩み寄り、立ち止まって、今まで下ろしていた手を振り上げた。その手には、何かが。外からの月光に照らされて煌めき――
「――ッ! 止めろ!!」
それの正体に気が付いた俺は叫び声を発しつつ、その人影に飛び掛かっていた。
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