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落花流水、8話。

[387]  夢の字  2008-05-13投稿
「死神」

「……は?」

 間抜けな声を出すのは、今度は俺の番だったようだ。予想だにしなかった答えに、知らず、俺の口からは頓狂な声が漏れていた。こいつは、何を言っている?

「だから、死神だってば」

 その言葉を無視し、瞬きを、数度。それで何とか平静を取り戻し、半ば怒鳴り声に近い勢いで再度問い詰める。ふざけるな、とも付け加えて。だが帰って来た答えは全く同じもので、俺は思わず……こんな状況だというのに、頭を抱えそうになった。

――それが、命取りだった。

 その時俺に生まれた僅かな隙。その瞬間に人影は、首が切れるのも構わずに上体を跳ね上げ、自分の頭を俺の顔にぶつけて来た。ごっ、と鈍い音が響き、額と額がぶつかり合う。衝撃に身体がのけ反り、突き抜けるような痛みに額を押さえ――そして、手の中から金属の質感が失われている事に気付いた。不味い。そう思い咄嗟に鎌を探そうとするが、

「形勢逆転、だね」

 それは、探すまでも無く、俺の首筋へと押し当てられていた。相手は俺に押し倒されたまま、半身を起こし逆手に持った鎌を俺に突き付けている。少しでも力を加えれば、刃は皮膚を裂き肉を断ち、気道を外界と接続させてしまうだろう。そうなれば待つのは失血死か窒息死かどちらかだ。自身の失態に、思わず舌打ちが零れる。

「どいて」

 刃を俺に向けたまま、人影は乱暴にそういった。形勢逆転、との言葉通り、今度は俺が従わなければならないらしい。ゆっくりと身体を離していくと、それに従って刃と相手の身体がついてくる。

「両手を上げて後ろで組んで、私が良いって言うまで向こう向いてて。もし妙なそぶり見せたらただじゃおかないから」

「いいのかそれで? はい、と言ったとして、俺が本当に従うと思ってるのか? お前が俺から気を逸らした瞬間にお前に襲い掛かるかもしれんぞ」

 揶揄するように言ってやると、しばらく無言の間が出来た。強くなった視線が肌に突き刺さる。

「両手上げて後ろで組んで、私から見える位置に居て」

「わかった」

 鷹揚に頷きながら、俺は人影について思索していた。体格は小柄、声の高さや自分の事を「私」と言っていることから、恐らくは十代の女児だろう。体格、体力どちらも負けている気はしない。だったらまたチャンスはあるはずだ。

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