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美ら海【ろ】

[341]  ウグイ  2006-05-09投稿
改めてもう一度、自分の身体を見回す。
半袖、短パン……、ぼさぼさの髪。

おお、見事にダサい。

「りか〜、置いてくわよ」
スーツの男性に連れられていく母親に呼ばれた女の子は、去り際に俺の方を向くとおもいっきり憎たらしい面でベーっと舌を出して馬鹿にしやがった。

スーツの男性が用意していた黒塗りの高級そうな車に乗り込んだ一家は、俺を残してその場を去っていく。
ぶろろーん。

…………。

「うっせ、うっせーよ、ガキが!シーサーに噛まれて泣いちまえっ!」

見えなくなっていく車に向かって精一杯叫んでやった。

はー、はー、疲れた。

んな事よりも、俺も予約客を探さないと。

慌ててバスの方に振り向く。

しかし、そこには待ち人もいなければ観光客の姿もなかった。

ただ、バスが音をたてながら佇んでいるだけだ。

「おい、マジかよ」

俺は顔を片手で覆いながら、またしてもシーサーにもたれかかった。

まさか、俺の予約客は間違えて別の旅館に連れていかれてしまったのか。

誰もいなくなったバス停がそれを告げている。

ぶろろーん。

遂にはバスまで去っていってしまった。

もう落胆しても、しょうがないか。

帰ったら綾子に殺されるだろうな。

ああ、帰りたくない。

いっその事、言い訳するか?

巨大なシーサーと戦ってたら客を見失ったとか……。

無理があるか。

色々と思案を張り巡らせながら、とりあえず顔を覆っていた片手をどける。

眩しい太陽の光りが一時の暗闇を忘れさせる様にまばゆく輝く。

そして、その先に『光り』はいた。

小さな麦藁帽子を頭に被り、夏だと言うのに長袖、ジーパンの女性が立っている。
女性は細身の体を大きく太陽に伸ばすと、胸いっぱいに空気を身体に取り入れ、そして余韻を楽しむようにゆっくりとはき出した。

「潮の匂いだ……」

女性の綺麗な声が俺の耳に届いた。

同時に綾子の言葉が頭をよぎった。

『お客様は可憐な女性だ。丁重におもてなしする様に』

神は俺を見放さなかった。

ようこそ、金ヅル。

がっはっは!

じゃなかった。

おもてなしだ、おもてなし。

つーか、おもてなしってどーやるんだ。

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