昨夜父さんから彼(彰)を家に呼ぶよう言われた。
何を言われるのか、おおよその見当はついていたけどやっぱり不安でしょうがなかった。

私たちは高校の同級生で今28歳。当時野球部だった彰くんは大学からの誘いが来るほどの名選手だったけど、全て蹴って地元に残ってバイトで食べています。

彼、彰くんは歌が好きで、とっても好きで、夢を追っ掛けているんです。

私、そんな彼が大好きで、だからずっと傍に居ます。まわりの友達はほとんど結婚をして、幸せな家庭を築いているけど、私は彼の夢が叶うまで待とうと決めています。

なのに、それがなんでいけないのか･･･、
父さんわかってくれなくて･･･。

次の日、彰くんが家に来ました。
｢こんばんは、おじゃまします。これ、どうぞ。｣
彰くんは母さんに父さんの好きな銘柄の缶ビールを手渡した。
｢ありがとうね、気を遣わせてごめんなさいね。｣
母さんの優しい声に、彰くんは一瞬｢ニッコリ｣と笑みをこぼすと、奥の座敷へと向かった。

｢悪かったね、呼び出したりして。｣
先に声を掛けたのは父さんの方だった。
｢とんでもありません。｣　彰くんはそう言うと座布団に正座をした。そして私も隣に座った。

父さんは6人兄弟の長男で地元の高校を出た後、大学には行かずに関東の自動車会社に就職をして、弟や妹達の学費を毎月実家に仕送りしていたらしい。
｢亜紀子の父さんには本当に世話になったんや｣　
そんなことを叔父や叔母からよく聞かされていた。私が10歳の頃、父さんは転勤でこの町の自動車ディーラーで働くことになり、今は工場長として頑張っている。来年が定年で、定年になったら家を処分して故郷の九州に帰るといっている。
｢彰くん。｣
父さんが話しはじめた。

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