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一週間 最終章 クチズサミ 6

[382]  伊守弐ノラ  2008-05-21投稿
春樹はしばらく黙っていたが、祐輔の視線を感じてようやく口を開いた。

「悠子が日記を持って飛び出していった時…気付くべきだったよ、この場所に来ることを…夕方お参りに来たら、悠子がそこで変わり果てた姿で…」

春樹は、悠子の血が染み込んだ地面を見つめている。そんな春樹を、祐輔はまだ凝視していた。

「私が車で運んだんだよ…悠子が発見されたという公園まで…君の住むマンションに一番近かったから、せめて君の側にと思ってね」

春樹は洞窟の天井を仰いで、一度ため息をついた。

「はぁ〜…辛かったよ、悠子を芝生に寝かせて去る時は…いや、私は我が子の遺体を、置き去りにして捨てたんだ」

祐輔は、目を瞑り、拳を握り締める春樹を、複雑な想いで見つめていた。

「春樹さんのした事は、死体遺棄という犯罪だ…何故です、何故そこまでして!何のために…」

「お義母さんとの約束なんだ…足腰が弱くなったお義母さんの代わりにと、朝夕とお参りを欠かさなかった早苗が、その祠で母親と同じ死に方をしてしまった…その時お義母さんは、自らに封印していた悍ましい記憶を全て思い出して、彼を鎮めることが出来なかったから早苗を死なせてしまったと、自分を責めて…」

「鎮めるって…まさか…ポリトフスキーの、怨霊の仕業だとか言いませんよね…」

「私はそう思ってるよ…お義母さんは自責の念に駆られて衰弱し、早苗の後を追う様に逝ってしまった。婿養子の私に彼を鎮めてくれと言い残して」

「だからって…」

「祐輔くん…私は、私を実の息子の様に可愛がってくれたお義母さんのためにも、この祠を守って行かねばならんのだ!」

祐輔は、本気で怨霊の仕業だと信じる春樹に半ば呆れていたが、ふと疑問が湧いてきた。

「ちょっと待ってください…菊枝さんは、ショックで事件の一切を忘れていたのに、どうしてポリトフスキーのことは忘れなかったんだ?」

「確かに…変だね」

「それに、彼はこの場から姿を消して生死も分からなかったはずなのに…菊枝さんは何故ここに祠を建てたんだ?」

その時、祠の方を向いていた祐輔の右頬を、冷たい風が通り過ぎていった。

「春樹さん…彼は確かに、ここに居るかもしれませんよ」

そう言って祐輔は、真っ直ぐと祠の方へと歩んでいった。

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