Mind Adventure 24
実際、この程度の拘束など、妖需にとって、無きにしもあらずだった。
靴の窪みに指を差し込み、軽い衝撃を加える。
靴裏に仕込まれていた鑢が飛び出し、カラン、と音を立てて床に転がった。
それを使い、まず腕を縛るロープを切る。
同じ要領で、鉄柵を被っている金網も切断した。
この場所が、古い建物でよかった。
祖母に教わった開錠術は、元はもっとしっかりした物だったのかも知れないが、教えた人間が世紀末的な不器用だったせいか、殆ど力業なのだ。
建物が古いと、もう一つ便利によい事がある。
それは、武器の調達。
先程用いた鑢を、壁のひび割れに慎重に差し込んだ。
下に落ちる小石の音を、床に敷いた靴下で緩和する。
両手でなんとか持てる程度の小石を、靴下に詰めて軽く振ってみた。
お粗末ではあるが、なんとか使えそうだ。
ブラック・ジャック。
2000年以上前の空白の時代よりもっと昔に、とある死刑衆が、脱獄に用いた、武器だという。
きっと時代は大きく変わったのに、今も残る先人の智恵。
変わらないもの。
変わらない想い。
そして、歴史が埋もれた虚無。
暢気に不思議さを感じて、数秒放心したあと、頭を振って切り替えた。
ほぼ同時刻。
同じ牢に入れられたジンとディルは、妖需と同じく脱出を果たし、廊下を派手に爆走していた。
突然、兵士達に囲まれ、ジンの制止を受けて、大人しく捕まったというわけだ。
体の重みや苛々が治まった今、暴れる事に関して言えば、はっきり言って賛成だが、ジンの意見の転換が唐突過ぎたのが、少々気になる。
そんなディルの心の内に気付いたのか、ジンが、口を開いた。
「急ごう。フィレーネと妖需が危ないかもしれない」
「……?どういうことだ……?」
「きっと、混血だって事がバレてる。」
ディルは、息を呑んだ。
「―――よかったな。魔物じゃなくて、動物で」
顳を伝った汗が、音もなく地面に落ちた。
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