落花流水、11話。
「阿呆か」
「……その答え、予想はしてたけど」
脱力して肩を落とす俺に、落胆の色を多分に含んだ声が浴びせられる。
なんだ、こいつ。ふざけているのか? にしては先のやり取りは本気を感じられたのだが。……ああそうか、電波か。電波なんだな。春はまだ遠いと言うのに、先駆けて悪い電波に罹ってしまったんだ。可哀相に。
「……慣れてるから別にいいんだけど、一応言っとく。……ナニその道端に打ち捨てられた死にかけの仔犬を見るような目は」
「気にするな。この表情が俺の標準装備なんだよ」
「…………ま、いいけど。慣れてるし、ホント。ってか君そんなキャラだった? なんかさっきと全然違うというか、妙にフランクになったっていうか」
「俺はプロだ」
「答えになってないよ、それ」
「仕事とそれ以外で顔を使い分ける事は当然だ。相手によって変えることも有る。そういうことだよ、分かったか」
「むぅ」
暗闇から、唸り声。きっと視界のきかない薄闇の向こうでは憮然とした表情を浮かべているに違いない。……ん? 俺からは見えないのに、向かうからは見えるのか……? 嵌められた、か? いや、どうもしっかり見えているように聞こえたが。
「じゃあ君は今、どういうつもりで私と話してるの?」
首を傾げる俺に、質問が追加される。それに答えようとして、ふと、気が付いた。此処に来てから、相当な時間が経っている。死体が目の前に有るのは若干気分が悪いしし、誰かが此処に来ないとも限らない。醐鴉がてを打っていてくれているとは思うが、それにも限りは有るだろう。あまり、長居はすべきじゃない。
「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「聞いてるさ。それよりも、俺は早く帰りたいんだが。話が聞きたいなら場所を変えないか」
「……君、人の話全然聞かないね。ま、いいけど」
言って、僅かに闇が動いた。人影が一歩を踏み出し、顔に真剣な表情を――否、それはもう人影などでは無かった。
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