落花流水、12話。
予想通り、俺の胸程までしかない身長の十代の少女。散切りにされた黒髪は無造作に肩から前へ流され、風もないのに緩やかに棚引いている。あどけなさの強く残る顔立ちには不相応なまでに真剣な表情が湛えられており、そして――身体全体が淡く、蒼く、発光している――?
自らが発する光に照らされて一歩を踏み出した少女が、腕を水平に伸ばす。描いた軌跡で闇を切るように、前から横に。手にしているのは先程の草苅鎌。捩くれた蔦が絡まりあったような歪んだフォルムの柄から伸びる刃には歪みは無く、また、曇り一つない。やや青みがかった黒色の金属で出来たそれが蒼の光に煌めき……俺は唐突に理解する。俺が鎌を判別出来たあの光は、決して照り返しなどではなく、この煌めきだったのだ、と。
「ホントはこんな大袈裟にやらないんだけど、今日は特別。存分に驚いてね」
青白い光に包まれ、彼女、は悪戯っぽく微笑み、そして呟く。
「“境界軛”、ポイントA‐89にて発令。認証コードの提示、及び受諾を確認。直ちに第一釦の押下。三番ゲートの開放、則ち回還公式による境界式の展開。展開した式に数値x=27/y=63を代入し起動、制定座標はA-87=x58/y103、誤差許容範囲はx、y共に3――確定。第二釦の押下により制定は満了す。故に」
輝きに満ちるその腕を振り上げ、死体を見据え。
「“死ノ守”の名の許に現世を軛き、“死ノ神”の名の許に幽世を結ぶ。解き放たれし魂よ、惑う事など無きように――」
振り下ろされた鎌が死体を袈裟に切り裂き、しかし、傷口から漏れるのは赤い血潮ではなく、蒼白の、光。強く、目眩く、輝いて視界を埋め尽くし、そして、
「暮れることなき未明の道を、ただひたすらに進みやれ――」
声が、響いた。
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