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落花流水、13話。

[373]  夢の字。  2008-05-26投稿

 視界を塗り潰した青い光が治まり、眼球が役割を思い出した時。暗闇へと立ち戻った室内には首を吊ったままの無傷の死体と、傍らに佇む黒衣の少女が先程と変わらない場所に存在していた。ただ、違うのは。少女と、少女の手にする黒い刃を持つ草苅鎌が、未だ、淡く青色の燐光を纏っていることだけ。そして少女は俯かせていた顔をあげ、得意げに、けれどどこか怯えたように微笑んだ。

「ど? 驚いた?」

 何を言われたか分からなかった。質問の内容を理解するのに数秒。「驚いて」と言われた事を思い出すのにまた数秒……そして、ようやく、自分が驚いていることに気付いた。

「……驚いたな。ああ、驚いた」
「でしょ、これで……」
「この阿呆が! あんな目立つ事をして、誰かに見つかったらどうするんだ!!」

 少女は突然の怒鳴り声に目を丸くし、俺はしまった、と思い口に手をあて、耳を済ます。目の前の少女がたてる呼吸と身じろぎによる衣擦れの音以外、何も聞こえない。

「や、でも君以外の人には見えないはずだけど」
「黙れ。行くぞ、もうこれ以上此処にいるのは、本当にマズイ」
「え、いや私は、」
「いいから行くぞと言ってるだろう!」

 半ば強引に少女の手を取り、死体のある部屋を後にする。ドアを僅かに広げ、確認してから出た廊下には暗闇が広がるばかりで、何一つ確認できない……と思ったのだが、何処かに明かりでもあるのか不自然にほんのり明るかった。いや、いい。分かっている。

「消せよ。今すぐその欝陶しいのを」
「消せと言われて消せるほど、便利なつくりはしてないよ」
「……お前は壊れた発光ダイオードか、このポンコツが」
「酷い!?」

 仕様が無いので少女の光は捨て置いて、明かりの消えた廊下を気をつけながら進む。耳を済ませながら歩き、角では立ち止まって確認して進む行為を「なんかスパイみたいだね」と言った発光ダイオードを平手でどつきながら、何とか誰にも見つからずに出口に辿り着いた。どうやら醐鴉は俺の予想以上に良い仕事をしていたらしい。帰ったら礼の一つでも言ってやろう。

 けれど、その前に。済ませておかなければならないことが一つ。

 繋いだ手の先、黒衣の少女。未だ薄らぼんやりと光り続ける少女は、俺の視線を受けて困ったように、情けない笑顔を浮かべて見せた。

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