落花流水、15話。
「俺が、そうだと?」
「まぁ、見た感じそんなとこ」
馬鹿な、と思う。信じられない、とも。自慢じゃないが生まれて来てこの方そういう類の物を見たことがないし、そもそもが……そうだ。こいつが死神だという事を、俺は完全に信じた訳では無い。リアリストに過ぎる、というわけでは無いのだが、ホイホイ信じて割を食うような真似はしたくないのだ。
「……信じてないって顔だね。私のなにもかもを。まぁ、頭おかしいんじゃないかって思われるよりマシだけど」
「矜持だよ。人を簡単に信じないのは。だが、誇大妄想の類だって切って捨てるには確証が何一つ無いからな。対して不可解な事実が、それも確固たる“事実”として存在してしまっている」
くすり、と。俺の言葉を聞いた少女が微笑った。自称・死神――つまり、“そういう類”の存在の彼女にとって、少しでも自信を肯定するような言葉を聞けたことは、やはり嬉しかったのかもしれない。伏し目がちに何処か遠くを見ながら口元を緩め、話を続ける。
「リアリストなんだね」
「そうか? まあ、常識に囚われないで目の前の事実を認めているって意味なら、合っているかもな」
「ロマンじゃご飯も食べれない?」
「食欲を作るのもロマンだろう。……いや、こんな話がしたい訳じゃなくてな」
「そう? 私はこういう話好きだけど」
「こういう無駄話が、か?」
「ん。無駄、っちゃぁ無駄だね。この会話には意味なんてないし。けど、楽しい。そして楽しいと感じたその一点に於いてのみ、この無駄話は無駄じゃない」
「詭弁だな」
「詭弁だよ」
言って、お互いに呼気を漏らす。不快ではない、微笑のような。
そういえば、こういう無駄話をするのは久し振りかもしれない。学校は小学から行ってないし、今更通う気も無く。かといって、代替物を探す気にもなれない。その上一人暮しで、近隣住民との交流も無い。話をする機会など仕事絡みでしか存在せず、果たしてそこに今のような“無駄話”があったかどうか怪しいものだ。そう、思えばここ数年、会話という会話はマスターとしか交わしていない。
「……って、本題って何だっけ? 忘れちゃったんだけど」
「ああ、俺も。……忘れたな。すっかり」
そして、困ったことに。本題や、少女の正体や、仕事の事や、その他諸々事が、なんだか、どうでもよくなって来てしまっていた。
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