落花流水、16話。
「そもそもが、目的なんて無かったんだよな。ただ成り行きで手を引いて来ただけで」
「だね。あの部屋に放置でも良かったし、連れ出した後も、何もここまで一緒に来る事は無かった」
事実を追って確認するうちに、また、笑みが零れる。一体なんなんだこれは。何をそんなに、俺達は必死になっていたのか。何もそんなに必死になることはなかったのではないか。……今更気付いても遅いのだが。ただ、建前としては。
「建前を、言うならば」
「ん?」
「お前が俺の事を誰かに話さないように、念を押しておく必要が有った」
「話さないよ。約束する。……ま、話すような相手なんていないけど」
「寂しい奴だな。同情はしないが」
「放っといてよ。そんなこと言うなら、君が話し相手になってくれる?」
自嘲気味に歪んだ口の端が、その台詞が皮肉であることを示している。それはきっと俺が一笑に付す事が前提の言葉だったのだろう。端々に、諦念が滲んでいて。あどけない顔立ちには不釣り合いの笑顔は、けれど、不思議な事に少女に――死神という存在に、相応しいような気がした。きっと彼女はこれまてずっと孤独で、きっとこれからも孤独なのだろう。そしてそんな孤独に満ちた日々を、諦念を以て過ごしていく。歪んだ笑顔が、その証左。
「別に良いさ、それでも。言ったろう、俺はまだお前を信用していない、って。見張るには好都合だよ」
「…………」
俺の言葉に、何を思ったのだろう。少女は目を丸くして、そしてゆっくりと表情を崩した。歪みの無い、柔らかな笑顔へと。少女の細められた目が俺を捉え、俺は何となく居心地が悪くなって目を反らす。そこに追い討ちをかけるように響く、少女の声。
「それは、建前?」
「本音だよ。紛れも無くな」
「そ。ありがと」
訳も無い謝礼。受け取るには、至らない。けれど不粋に過ぎるその言葉を口にすることは無く、ただ目を反らし、言うべき言葉を飲み込んだ。代わりに告げる言葉は、すんなりと口に出る。
「俺は百目(どうめ)。ご存知の通り見届け屋だ。そっちは?」
「私は死神。後にも先にもそれしかないよ。短い間だろうけどよろしくね、めーくん」
深夜1時、閉店後の喫茶店。頼んだものが届く気配は、未だ、無い。
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