花の調べ 2
ツタや蔓草(つるくさ)が複雑に絡み合う、可憐な花の装いに包まれた門を通り抜けると広い中庭があった。
(へぇ…… こりゃまた凄い景色だな)
月光に照らされた庭は、言葉どおり「咲き乱れる」という形容がふさわしいほど花にあふれ返っており、淡く白い光に華麗な陰影を添えている。
しばらく人の手が入っていなかった様で、雑草の間に小さくなってしまった薔薇が妙に微笑ましい。
「おや? あれは……」
僕は、開け放たれたベランダの窓から姿を見せている人影に気づいた。
花に埋もれた幻想的な景色の中、ピアノを奏でる少女の姿が花の精のようにほの白く浮かび上がっている。
そこでふと気がつくと、ピアノのまわりは無数の猫たちが取り巻いており、彼女のソロリサイタルの聴衆となっていた。
やがて【ノクターン第二番】で演奏がしめくくられる。
おもむろにピアノの蓋をパタッと閉じた少女は、しゃがみ込んで猫たちに優しく愛撫を与えながら、僕に澄んだ瞳を向けてきた。
『初めまして〜。 あたし咲季(さき)。 小村咲季っていうの。おじさんは?』
まるで月の光で描いたような色白の顔を笑顔でほころばせ、少女が小首をかしげてくる。
僕は一瞬ためらった後に名乗っていた。
(もしかして……これって不法侵入だよな?……)
僕のとまどいや内心の不安をよそに、咲季と名乗った少女は無邪気な笑顔を浮かべたまま、自らの素性を明かしていく。
『あのね、あたしね、…ふふっ♪実は幽霊なの』
「え… 何だって?咲季ちゃんがユーレイ?……」
意外な言葉に改めてよくよく眺めてみると、確かにあるべきはずの影がない…
それに加えて顔や手足以外は半透明に近い。
当然向こう側の景色がものの見事に透けて見える。
『あたしね?お月さまの夜だけ出てこれるの。
おじさん、また猫ちゃんと遊びにきてね』
そう言った後僕や猫たちに『バイバ〜イ』と小さく手を振りながら、少女の幽霊は青白い光に溶けていった。
つづく
感想
感想はありません。
「 朝倉令 」の携帯小説
- 【携帯版】多賀城[たがのき]の携帯サイトが完成しました。
- PC用小説サイト新設のお知らせ
- 「携帯小説!」がスマートフォンに対応しました
- 【状況報告】03/18の管理人現況
- 【ネット復活】更新再開
- 管理人です。
- サイトの新デザインを作ってみました。