空飛ぶサカナと箱の街 -Alterate Fish's Distance- 2
「相変わらず日明(ひので)は、物覚えが悪いね」
「放っとけ。今に始まったことじゃねぇだろ、それは」
「けど、流石にこの娘を忘れるのは凄いよ。何たって色んな伝説を作り上げてきた娘だからね」
「ちょっ……中島くん?!」
「へぇ。教えろよ、それ聞いたら何か思い出すかもしれないしな」
伝説。噂話。武勇伝。そういった類の話は好きじゃなかったが、そういうのは普通に生活してれば一つや二つは耳に入ってくる。好む好まざるに関わらず、だ。だとすれば、心あたりが絶対どこかにあるはずだ。
どうやら物覚えの悪い人間、という汚名を返上する時が来たようだ。心辺りの一つや二つぱぱっと見つけて、見事、思い出してやろうじゃないか。
「まず」
「ちょっ、やめ、内緒! それ内緒!!」
邪魔が入ったのは俺が外から戻した身を乗り出して意気込みを表明し、それを確認した雄平が話し出そうとした時だった。素敵にインターセプトをかけてきたのは勿論当の本人で、腕と目をせわしなく動かして何とか俺達の会話を阻もうとしている。呆れた必死さだ。何をそんなに慌てているんだろうか。もしやその伝説とやらが半端無く恥ずかしい物なんだろうか。やれやれ。
「んだよ、まだ何も言ってないじゃねぇか。つか必死に隠すほど酷いもんなのか? なぁに、心配すんなよ、ちょっとやそっとじゃ笑いゃしねーし、ドン引くような失態なんてした日にゃお前学校なんて来ねぇで引き篭ってるだろ? 実際そんな事してねぇし、それならたいしたことねぇだろ」
「おお、日明にしては頭の切れる屁理屈だ」
「るせー」
さほど力を込めずに、雄平の頭をどつく。うお、頭が汗で湿ってやがる……気持ち悪ぃ。本来ならシャワーでも浴びてこいというところだが、まだ当の伝説とやらを聞いていない。ここは我慢の時だ。
「うぅ……でも」
「いーから、な? それともアレか、俺に忘れられたままでいいってか?」
頼む。俺の頭の保証がかかっているんだ。
「それは、うぅ。良くはない、かな」
「さーんく。おっしゃ雄平、どーんとこい!」
「……なんか趣旨が変わってきてるんだけどま、いいか」
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