箱のなか2
わたしは しょうがく一年の女の子
わたしはころ されたの
わたしはねています
わたしを ぉこしてほしぃの だれかだれかだれかだれか たすけて
「…なにこれ」
香月は薄気味悪い内容のたどたどしい手紙をアズサに返した。
下校中の生徒たちの声が遠退き、ふっと教室に静けさが宿る。
オレンジ色の明かりが部屋全体を染め上げる中、アズサは得たり、と微笑んだ。
「気味悪いでしょ?それ今、磯小で流行ってるんだってさ」
「磯小?じゃあまたアカリちゃん経由の話?」
磯小学校に通うアカリはアズサの年の離れた妹で主にオカルトネタを提供してくれている…いや、提供させられている。鬼姉に。
「ふぅん…アカリネタならあんたよりはいいかもしれないけど。で、流行ってるって…」
アズサは手帳を取り出した。ラメの入ったピンクの手帳が、キラキラと西日に輝く。
「三月くらいに一人の女子生徒の机にこれと類似した手紙が入ってたんだって。それが誰かはまだ特定出来てないけど。でね、ここから急激に手紙が増えるの。高学年から低学年まで幅広く配られてる。問題はここからで…はい、封筒みて」
手渡された封筒を裏返す…とそこには
柿崎総合病院
と印刷されていた。
「芸が細かいね。柿崎ってあの…」
「そーゆーこと。廃病院となった病院からの手紙…ってわけ。どうよ。面白くないわけない」
アズサの目が光る。
燃え立つような逢魔々時…香月は静かにうなずいた。
「いいよ。全部話して」
アズサの説明はこうだ。
噂によると、手紙を配られた少年少女がそれを持ち、廃病院…元柿崎総合病院に行く。
そこで夜中の2時にコックリさんをやり少女を呼び出すと彼女が現れ、起こしてくれた御礼に願いを叶えてくれるという。
いかにも子供らしい、恐怖話だが、よく出来ている。…小学校ではすでにそれをやった生徒が英雄として持て囃されたり、嫌いな子に手紙を押し付けたり、とかなり問題になっているようだ。
「ふーん…で、やった子供って本当のとこいるのかな」
香月とアズサは下駄箱にもたれながら、目を見合わせた。
二人の答えは同じ…いるとは思えない。
なぜなら、二人は廃病院を見ているからだ。
「あれは…無理でしょ。子供が入れるとは思えない。…怖すぎるでしょ」
アズサの声に押し殺した興奮を香月は感じていた…。
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