花の調べ 4
「今晩は。 お二人仲良く散歩ですね?」
人の善さそうなお婆ちゃんがニコニコしながら声を掛けてきた。
「どうも、今晩は〜。
この近くにお花の綺麗なお屋敷があるって聞いたものですから。
それに、いいお月さまですもの」
「お花?…… ああ、小村さんのお館ですね。
あそこの旦那さまは花好きでしたから…」
そう言ったお婆ちゃんは、皺の多い顔に少々複雑な色合いを浮かべていた。
それに目ざとく気づいた薫は、何気ない風を装って尋ねる。
「そのお館に何かあるんですか?」
「え…… いえいえ、別に大した事じゃないんですけど…… 不躾ですが、あなた方越してこられたばかりですか?」
「ええ、半月ほど前に、この先の高台に引っ越してきたばかりなんですよ。
あ、申し遅れましたが小田嶋と申します。これは妻の薫です」
二人の会話に割り込んだ僕は、言い渋る様子のお婆ちゃんに助け船を出すと薫に目配せをした。
(深く聞かない方がいい)
(…わかったわ)
素直に質問をやめた薫は、「それじゃあ」と会釈をした後、そそくさと退散を始めたお婆ちゃんに軽くお辞儀をする。
「地元では有名みたいね」
「うん。明らかに動揺してたみたいだからな。
あ、風向きが変わったのかな?
ほら、ピアノの音がかすかに聞こえるだろ」
「あら、本当…… すごく透明な音ねェ。
きっと心がキレイな子だと思うわよ」
ピアノの音色を目指して歩くうちに、僕らは目的地の洋館にたどりついていた。
「まさしく〈花の館〉って呼ぶにふさわしい眺めね… まるで花に埋もれてるみたいだわ」
「あはは、君が言う所の妖精さんもいるしね」
二人は花を踏まない様に気をつけながら、ベランダの方へと向かった。
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