箱のなか9
天使さま 天使さま
いらっしゃいましたらこの指に宿り、おろかなる我らを導きたまえ
天使さま 天使さま
… …
十円はピタリと紙に吸い付いたまま動かない。
やっぱりなぁ。
亮が見ているのに、恥ずかしいというか…。
馬鹿馬鹿しくなり、向かいあったアズサに目を向け…笑いかけた唇が、そのまま凍りついた。
アズサの顔がおかしい。
目は見開かれ、絶え間無く頬が引き攣っている。唇は半分開いたままで、何もみない目で紙を見つめていた。
「あ…アズサ…」
その瞬間、十円が勢いよく引きずられた。
香月の指が持っていかれる。
「きゃ…」
「香月?どうした」
香月は慌てて亮と雅也を片手で押し止める。
「だめ!今、私たちに触らないで!」
十円は勢いを弱めることなくしばらく円を書き続け…急にピタリと止まった。
わ た し は
お ん な のこ
香月の怯えた目線に亮が安心させるように頷く。
わたし を おこ したあなた たちに しゆくふくを
「祝福…?天使さま、あなたは誰ですか」
わたし は あずさ
「な…なにを」
雅也がたじろいだように異様な様子のアズサを伺う。
わた しはあずさ
あずさ が ほしい
じやましないで
ガタガタガタガタ
アズサが震えている。
「アズサ!冗談でしょ?ねえ、目を覚ましてよ」
アズサの唇から唾液が零れ…拭うことなく紙に滴り落ちた。
「亮!亮…どうしよう、ねえ、どうしたら…」
「落ち着け!俺にも解らない…なあ、どうすれば終われるんだ?」
香月は息を吐き、目まぐるしく考えを巡らせる。
「て、天使さま、アズサはあげられません。アズサは生きています。天使さまは誰なのですか」
ほしいほしいと訴え続けた十円の動きが止まり、すっと違う方向に逸れた
そ れな らあずさを
ねむ らせる
わたし さびしかつた
じやましないで
アズサはいきなり立ち上がった。
そして。
十円から指を離した。
「アズサ!だめ…どうして…」
コックリさんの鉄則。
やっている最中に絶対に指を離してはいけない。
離した者は…とり憑かれる…。
感想
感想はありません。