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箱のなか9

[496]  ゆうこ  2008-06-10投稿

天使さま 天使さま

いらっしゃいましたらこの指に宿り、おろかなる我らを導きたまえ


天使さま 天使さま

… …


十円はピタリと紙に吸い付いたまま動かない。

やっぱりなぁ。

亮が見ているのに、恥ずかしいというか…。

馬鹿馬鹿しくなり、向かいあったアズサに目を向け…笑いかけた唇が、そのまま凍りついた。

アズサの顔がおかしい。
目は見開かれ、絶え間無く頬が引き攣っている。唇は半分開いたままで、何もみない目で紙を見つめていた。

「あ…アズサ…」

その瞬間、十円が勢いよく引きずられた。
香月の指が持っていかれる。

「きゃ…」

「香月?どうした」

香月は慌てて亮と雅也を片手で押し止める。
「だめ!今、私たちに触らないで!」

十円は勢いを弱めることなくしばらく円を書き続け…急にピタリと止まった。

わ た し は
お ん な のこ

香月の怯えた目線に亮が安心させるように頷く。
わたし を おこ したあなた たちに しゆくふくを

「祝福…?天使さま、あなたは誰ですか」

わたし は あずさ


「な…なにを」

雅也がたじろいだように異様な様子のアズサを伺う。

わた しはあずさ
あずさ が ほしい
じやましないで


ガタガタガタガタ

アズサが震えている。

「アズサ!冗談でしょ?ねえ、目を覚ましてよ」
アズサの唇から唾液が零れ…拭うことなく紙に滴り落ちた。

「亮!亮…どうしよう、ねえ、どうしたら…」

「落ち着け!俺にも解らない…なあ、どうすれば終われるんだ?」

香月は息を吐き、目まぐるしく考えを巡らせる。
「て、天使さま、アズサはあげられません。アズサは生きています。天使さまは誰なのですか」

ほしいほしいと訴え続けた十円の動きが止まり、すっと違う方向に逸れた
そ れな らあずさを
ねむ らせる
わたし さびしかつた
じやましないで

アズサはいきなり立ち上がった。

そして。

十円から指を離した。

「アズサ!だめ…どうして…」

コックリさんの鉄則。

やっている最中に絶対に指を離してはいけない。

離した者は…とり憑かれる…。

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