箱のなか17
「それで面白いこと考えたの。最初みたいにとり憑かれたあたしが闇雲にあんたと雅也を殺すって言うのじゃなく…雅也にも一役かって貰おうってね。あいつ、嬉しそうに持って来てた猫と犬の血をかけて、悲鳴あげて…後で死ぬってことも知らずに、笑えるでしょ。
シャツ切り裂いてガラスを立てて。
その方がより、面白いじゃない?」
香月は涙が伝うのを感じていた。
「あたしを殺して亮があんたを許すと、どうして思えるの?」
アズサは笑った。
「あんた、亮のこと解ってないね。亮はとり憑かれたあたしを放っておけるはずない。香月を殺したことで憎んだとしても…絶対にあたしを見放したりしない」
アズサは着せられた亮のシャツを引っ張ってみせた。
「血はとり憑かれたって事をアピールする為に持って来ていたの。
勿論、自分でかぶる為にね。キャリーって映画みたいでやってみたかったのよ。でも吐きそう。臭いし、二度とやらない。…あんたを殺したら」
アズサはポケットに差し込んでいた尖ったガラスを握りしめた。
動かないで震えている香月に、アズサはガラスを思い切り振りかぶった…
亮……亮、起きて……。
警察がゾロゾロと出入りしている。
亮はタンカに載せられ、救急車へと運ばれている最中だった。
頭が痛い…。
何がどうなって…。
だらりと垂れ下った手の平を、温かく握り締めているのは誰なんだ…?
亮は懸命に目を開いた。
「亮…大丈夫?」
病室で林檎を向いている彼女を、亮は優しく見守っていた。
「お前は怪我ないの?」
「うん、大丈夫」
香月は微笑んだ。
「…にしても…あの時、俺が気を失わなければアズは…」
暗い表情の亮を励ますように、香月はそっと手を握った。
「仕方ないよ。アズサは心から雅也を愛してたから…自分が雅也を殺しちゃった事、許せなかったんだよ」
「でもあの時点ではまだ雅也は生きていたかもしれないのに…」
香月は呟いた。
「きっとパニクったんじゃない?もしかしたら瀕死の雅也を見るのが怖かったのかも。…実際、雅也は死んでいたんだし…警察が見つけたもの」
「でも、アズが自殺するなんてな…」
亮の言葉に、香月は俯いた。
林檎を切りわけながら、唇には薄い笑みが浮かぶのを知る者は誰もいない……。
感想
感想はありません。