DOLL〜薔薇は灰になる〜…PROLOGUE…
人里はなれた田舎に、大きな屋敷がある。
赤レンガで作られた屋敷は頑強ながらも繊細なフォルムで、新しいにも関わらず年季を感じさせる造りだ。
主の藤堂晶人の細かいこだわりは内部まで行き届いている。
アンティークと現代アーティストの粋を凝らした傑作で彩られたインテリアは絶妙なセンスで、一線を超えれば悪趣味にもなりそうな華美な美しさを湛えている。
しかしなんといっても目を奪われるのは、あらゆる箇所に佇む、息を呑むばかりに美しい少女たちだろう。
ある者は広々とした応接間に置かれたグランドピアノを憧れの眼差しで見つめ、またある者は物憂い表情で出窓から広大な庭を見下ろしている。
ソファに座る少女。
庭で花を摘む少女。
台所を悪戯な瞳で見つめる少女。
ドレッサーの前でポーズをとる少女……。
そのどれもが、長い黒髪を持ち、頬はほんのり薔薇色に輝き、唇はハッとするほど紅い。
そしてそのどれもが、同じ顔をしていた。
様々な色の豪奢な西洋ドレスに身を包み、違う表情を見せながらも、間違いなくそれらは同じ少女…を象った人形だった。
年の頃は12〜3歳といったところで、ようやく膨らみ始めた胸元もまだ幼さを残している。
緩やかな癖っ毛はほんの少しの風にも揺らぎ、今にも少女が自らの手で頬にかかる一筋のほつれ毛を払いのけそうな気さえする。
今や50を過ぎた藤堂は精巧に作られた人形とすれ違う度に声を掛け、悲しげな少女を見れば眉をひそめた。
まるで彼女の悩みを心から心配しているように。
静かに、だがテキパキと働くメイド達も心得たもので、決して彼女達を疎かに扱ったりはしない。
少女の前を通り過ぎる時には、
「失礼します、お嬢様」と一礼した。もしも彼女達を粗雑に…つまり人形のように扱えば、首を切られるのは自分なのだ。こんな片田舎で、割りのいい仕事を見つけられる事など金輪際有り得ないのは明白だ。
かくて今日も、同じ毎日が始まろうとしていた…筈だった。
感想
感想はありません。