DOLL〜薔薇は灰になる〜…PROLOGUE…3
一陣の風が吹き抜け、一瞬の魔法を奪い去った。
少女の手から薔薇は零れ落ち、それでもそれを拾い上げはしない…。
人形である事を露呈された物体に、美樹はもう心動かされる事はなかった…。
それでも、なお少女に触れるのは躊躇われ、美樹はようやく目を逸らし、先へと進んだ。
すると大きな半円の扉の前に、黒くピッタリとしたパンツ姿の女性が立っていた。
白いものが混じった髪を引っ詰め、無駄なものが一切ない。
鋭い眼差しで美樹を見、手招きをした。
「こちらです」
冷たい声に従って後へ続く。
大きな扉には入らず、裏門へと回るようだ。
歩き続ける間も、女は美樹を一瞥もしなかった。
「ここです。お入りになって、すぐ左にあるお部屋でお待ち下さい。紹介状はお持ちですね?」
怖ず怖ずと差し出す美樹からサッと取り上げる。
「確かに。では暫くゆっくりなさって。後で藤堂様がお会いしますから、身嗜みは整えて下さい」
女の射るような眼差しに美樹は慌てて涙の後を手の平で拭った。
美樹は先程の三分の一程の大きさの扉をくぐり、顔が映るくらい磨かれた床に驚きつつ、女の示した部屋のノブを回した。
そこはシンプルな造りの部屋で、置いてあるのは壁に架けられた鏡と、木で出来た椅子。それに小さな本棚のみだった。
所在なげに荷物を降ろし美樹はため息をついた。
物語はここから綴られていく……。
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