DOLL〜薔薇は灰になる〜4
「お待たせしました…こちらです」
5分程待ったのち、先程の女性とは違う、若いメイドの声がした。
美樹はゴクリと生唾を呑み…いよいよあらゆる噂の持ち主である藤堂晶人に会う心構えをした。
果たして、彼は一体どんな人物なのだろう?
ある人は非常に情け深い優しい人物であると評しある人は、穏やかな仮面の下には氷の血が流れていると評する。
しかし実際、彼を深く知る者は長年使えたメイドしかおらず、彼女達は自分の親兄弟達にも多くを語りはしなかった。
それはここで働く上での非常に大事な条件のひとつだからだ。
とうとうここまで来てしまったんだわ…。
長かったようにも思う。
が、今、この瞬間において全てが報われる気がした。
まだスタートにも関わらず…。
細く長い廊下を渡り、二階へと上がる。
一階と違い、二階からは毛足の長い赤紫の絨毯が敷かれている。
一定の間隔で造られた窓からは陽射しが射し込みより一層廊下を長く見せていた。
前を滑る様に歩くメイドも髪を引っ詰めている。が、あの女性よりは隙があった。
美樹を時折、興味深げに窺う視線。
それは刺激に飢えている目をしていた。
「こちらです。では失礼します」
大きな突き当たりの扉の前で、一人取り残されてしまった。
美樹はゆっくりと深呼吸し、更にゆっくりと吐き出した…大丈夫。きっとうまくいく。
うるさくない程度に、だがはっきりと扉をノックする。
「お入り」
柔らかい声が答える。
「失礼いたします。面接を受けに参りました乙部美樹です」
声は震えなかった。
足取りもしっかりしている。
美樹は優雅に屋敷の主が座るソファまで歩いていった。
「そこへ。どうぞお楽になさい。そんなに緊張する必要はないですよ」
美樹は見抜かれた事で逆にホッとした。
取り繕っても仕方ない。豪華なゴブラン織りのソファへ腰掛ける。
そして目の前に座る藤堂に微笑みかけた。
想像より彼は華奢に見えた。未だに豊かな髪は灰色で、自然な色合いから染めていない事が解る。明るい鳶色の目を持ち、すっと通った鼻筋は完璧だ。
ただ唯一、印象的な美貌を損ねているのは、頬から唇にかけて残る赤い傷だった。
それは仮面のような顔立ちとは対象的にグロテスクではあったが、美樹はその傷ゆえに、まともに藤堂を正視していた。
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