悠久の抱擁 二
「瑠璃!」
いささか大きすぎる声で、名前を呼んで容子が駆け寄って来た。
「おはよう、容子!…ちょっと、今日も声大きすぎだってば!恥ずかしいよ。」
高校のクラブで演劇部の部長を務める容子の声は、それでなくてもよく通る。
朝の通勤通学の人ごみの中で、余計に声を張り上げるものだから、周り中の人々の眉をひそめた非難の視線が、瑠璃にも突き刺さるのがたまらない。
当の本人である容子は、澄ました顔でベロッっと舌を出している。
周りの視線など、どこ吹く風といった感じで、まるで他人事のようだ。
「もう…!容子ったら…!」
肩をすくめて笑い出す瑠璃につられて、容子も吹き出してしまった。
「ごめんって!気をつけてるつもりなんだけど、ついついね〜。」
瑠璃は、『発声練習で、もっと大きな声を出し慣れてるんだから、仕方ないんだけどさ』と思いながら、
「遅れちゃうよ、行こう!」
と容子を促し、駅のホームへと向かう、人々の流れに合流した。
瑠璃と容子は、小学校の時からの幼なじみで、姉妹のようにずっとくっついて育って来た。
どちらかというと大人しめで静かな瑠璃と、社交的でアクティブな容子は対照的な印象を受けるが、二人とも自分にないものを持つ存在が、それぞれに心地よい関係なのだ。
二人が高校受験を真剣に考え始めた時、瑠璃は地域でも人気のある進学校の、稜星館高校への受験を早々と決めていた。
稜星館高校は、進学校であるにもかかわらず、生徒の自覚と自主性とを尊重して、比較的自由な校風を維持している。
また、高い学力も誇っていて、頑張れば頑張っただけの結果も得られる、という事で、毎年受験希望者が殺到するらしかった。
瑠璃がそこを受験すると言った時、容子は複雑な顔をした。
瑠璃が、トップクラスの成績であるのは知っていたから、稜星館高校あたりを受けるのは予測出来ていた。
だが、いざそれが現実になるのだと思うと、自分の足元が見えなくなってしまったのだ。
容子の成績では、稜星館高校にはちょっと届かないかもしれない。
安全な受験をすれば、瑠璃とは別々の高校に通う事になる。
でも、容子には瑠璃と違う制服を着て、違う高校に通う自分が、どうしても想像出来なかった。
なぜだか、自分は絶対に、瑠璃から離れてはいけないんだと使命感に駆られていた。
いささか大きすぎる声で、名前を呼んで容子が駆け寄って来た。
「おはよう、容子!…ちょっと、今日も声大きすぎだってば!恥ずかしいよ。」
高校のクラブで演劇部の部長を務める容子の声は、それでなくてもよく通る。
朝の通勤通学の人ごみの中で、余計に声を張り上げるものだから、周り中の人々の眉をひそめた非難の視線が、瑠璃にも突き刺さるのがたまらない。
当の本人である容子は、澄ました顔でベロッっと舌を出している。
周りの視線など、どこ吹く風といった感じで、まるで他人事のようだ。
「もう…!容子ったら…!」
肩をすくめて笑い出す瑠璃につられて、容子も吹き出してしまった。
「ごめんって!気をつけてるつもりなんだけど、ついついね〜。」
瑠璃は、『発声練習で、もっと大きな声を出し慣れてるんだから、仕方ないんだけどさ』と思いながら、
「遅れちゃうよ、行こう!」
と容子を促し、駅のホームへと向かう、人々の流れに合流した。
瑠璃と容子は、小学校の時からの幼なじみで、姉妹のようにずっとくっついて育って来た。
どちらかというと大人しめで静かな瑠璃と、社交的でアクティブな容子は対照的な印象を受けるが、二人とも自分にないものを持つ存在が、それぞれに心地よい関係なのだ。
二人が高校受験を真剣に考え始めた時、瑠璃は地域でも人気のある進学校の、稜星館高校への受験を早々と決めていた。
稜星館高校は、進学校であるにもかかわらず、生徒の自覚と自主性とを尊重して、比較的自由な校風を維持している。
また、高い学力も誇っていて、頑張れば頑張っただけの結果も得られる、という事で、毎年受験希望者が殺到するらしかった。
瑠璃がそこを受験すると言った時、容子は複雑な顔をした。
瑠璃が、トップクラスの成績であるのは知っていたから、稜星館高校あたりを受けるのは予測出来ていた。
だが、いざそれが現実になるのだと思うと、自分の足元が見えなくなってしまったのだ。
容子の成績では、稜星館高校にはちょっと届かないかもしれない。
安全な受験をすれば、瑠璃とは別々の高校に通う事になる。
でも、容子には瑠璃と違う制服を着て、違う高校に通う自分が、どうしても想像出来なかった。
なぜだか、自分は絶対に、瑠璃から離れてはいけないんだと使命感に駆られていた。
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