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五色の炎?

[433]  中村モモ  2008-06-28投稿
「もしもし、もしもし」
警官に肩を叩かれ、振り向くと、
「もし良ろしかったら、事故が起こったときの、話を聞かせていただけますか?署まで行きましょう。すぐ近くです。顔色が悪いですよ。温かいお茶、用意します」
私は頷いた。しかし、頭の中は真っ白だった。
警察署で、私は名前を聞かれるより前に、熱い緑茶を差し出された。
私はお茶で、緊張のせいで冷えきった体を暖めながら、話す言葉を考えた。
「事故に遭われた方とは、どういった知り合いだったんですか?」
「九十九里で、声をかけられたんです。日本語の勉強をしている者です、って。…早い話が、ナンパ、みたいな」
私は適当なことを言い、その場をしのいだ。
私への質問は、あまり多くなかった。私が事故が起きた瞬間を、全く見ていなかったためだ。
帰宅し、布団に横たわると、どっと疲れが出て、私はすぐに眠ってしまった。
翌朝、目覚めると、枕がしっとりと濡れていた。汗だろうか?寝ながら泣いていたのだろうか?
ぐっすり眠ったつもりが、目覚めたとき、眠る前とほとんど同じくらいの疲れに、体はまだ支配されていた。
昨日、起きたことを、頭のなかで整理する。
梁の死、炎が消えたあとに残った、一本の髪の毛、警察署で出されたお茶。
炎の、呪いの力を、まざまざと見せつけられた衝撃。
とても、私一人の手には負えない。
夫に全てを話そう。そう決意した。
私は、朝早く出勤していった夫にメールを送る。
「今日、とても大事な話があるから、お酒飲まないで帰ってきて」
「了解」
すぐに、返事が返ってきた。これでもう、私は引き返すことができない。
たとえ昨日何があったとしても、それでも仕事をしなければならない。
こんなに仕事が辛いと思ったことはなかった。
仕事を終えると、すさまじく神経質になりながら、家路についた。まだ、私に危険な何かは襲っては来なかった。
しかし、いつ来ても不思議ではない。
帰宅し、ソファに横たわり、夫を待つ。普段なら、もうすぐ帰ってくる時間だ。
一瞬、夫の身に何か起きるのでは、と考え、戦慄する。
「ばかやろう。よしてくれよ」
私は火の玉に語りかける。
「私はともかく、夫に何かするのは、やめてくれよ。いいか。絶対にだ」
火の玉は頷いた、ように見えた。少なくとも、私にはそう信じることしかできない。

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