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バス停 1

[159]  さにぃ  2008-06-28投稿
今でも、順平が最終のバスから降りてくるような気がする。そして、私の顔を見て、今日もバスには運転手さんと僕だけだったよ、と、いつも同じことばかりを言う順平が、すぐそこにいるような気がする。

私が19歳、順平が28歳の頃、バイト先で出会い、そして付き合い始めた。特別、ドラマチックな出会いではない。
恋なんてそんなものだ。
それからは、バイト先、お互いの家、ずっと一緒の時間を過ごした。
いつも明るい順平が、時折見せる悲しい顔が、たまらなく好きだった。私は、彼の愛情の強さをよくわかっていた。しかし、彼はいつか壊れて、消えてなくなりそうな雰囲気をもっていた。

初めて彼を受け入れた夜、ずっとそばにいるから、一生離しはしないと何度も言ってくれた。

3年後、そんな素敵な約束は、あっさりと破られてしまった。
順平が死んだのは、しとしとと、あたたかい雨が降る春の夜だった。

終電を逃したお姉さんを、車で駅まで迎えに行った帰りのことだった。対向車線から勢いよく突っ込んできた居眠り運転のトラックに、順平もお姉さんも、あっさりと命を奪われてしまった。
お通夜もお葬式も、私は顔を出さなかった。

順平が死んでからの、3ヶ月間、私は寝てばかりだった。寝てる間は何も考えないでよかった。ただ、目を覚ました時のショックが計り知れないくらい凄かった。この世の悲しみを全部、私ひとりで背負ってるような気分にもなった。寝返りを繰り返し、吐きそうな憂鬱に襲われ目を覚ますと、容赦なく現実に放り出される。そして、暗く湿った布団の中で、私は声をあげて泣いた。長い冬を冬眠する動物のように、私はこんなことを繰り返した。
そんな姿を見兼ねた母の助言で、私は毎日,少しずつ近所を散歩するようになった。家の近所に大きな公園がある。そこを一周して、家に帰る。時間にすればわずか十分くらいのものだったが、今の私にはちょうどよかった。

公園の先に、古ぼけたベンチが置いてあるだけのバス停がある。順平が私の家に遊びに来るときは、そのバス停までよく迎えに行った。
彼が死んでからは、バス停を見るだけでも嫌だったが、最近は少し調子がいいと、私はバス停のベンチに腰をおろし、母が水筒に入れてくれた温かい紅茶を飲んだ。

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