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風のように

[334]  白羽  2008-07-05投稿
風になりたいと思った。
緑の大地をそよがしてあるがままに…。


小鳥が朝日に挨拶を交わす頃、真央は自転車で走っていた。

中川乗馬クラブ
ここは真央が大学で所属している乗馬部の活動場所だ。
周りは一軒家の集合地、そばには国道が走り、すぐ脇には川が流れている。
いつも見慣れた風景。ただ違うのは人の気配。
6時15分…。
妙に朝早い今日は週に1度くる馬の朝の飼いつけ当番なのだ。
ヒヒィ〜ン!!!…ブルブルブル…
真央の気配を感じたのか時折馬たちの鳴き声が静かな町に響く。

まだサッパリしない頭を振りながら、真央は自転車を降り、乗馬クラブの中へと進む。160cmの真央が中腰で通れる高さの、白い入り口を抜けると、目の前には8つの馬房があり中の馬たちは真央に向かって思い思いの行動を示す。といってもほとんどがエサの催促だが、真央はそれらを横目にサッサと竹ぼうきで掃き掃除を始める。

この中川乗馬クラブは家族経営の小規模なクラブでスタッフは2人。そこに真央を含める21人の学生が研修生として活動している。
真央が今からやる仕事はクラブ全体の掃き掃除と馬房にいる馬の餌桶をつけ、水を替えること。大学3年になった真央は手際よく作業をこなし、自分と馬だけの束の間の時間を過ごす。
ふと時計に目をやると7時5分前…。そろそろスタッフが餌をやりに来る時間だ。
真央の作業のピッチが上がる。

ガラガラガラガラ…

シャッターが開く音と共に野球帽を被り、眼鏡をかけた男の人の姿が現われる。
「おはようございます!!」
真央はその男性に向かって元気良く挨拶をした。
豊先生はこの乗馬クラブの社長であり、真央たちの監督なのだ。
物静かな先生は普段はあまり多くを語らず真央はあまり関わる機会がなかったが、3年になった今、ようやく関係を作れてきたと真央はささやかながら思っている。
監督と二人きりの朝飼いの気まずささえ今ではあまり感じない。

「ご苦労様」
餌をあげ終えた監督は真央に一言告げるとまた家まで戻って行く。

コポコポコポ…

再びクラブには静寂が戻り、水が桶に入る音と歯切れの良い馬の草を噛む音が心地よく響く。

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