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花の調べ 最終楽章

[971]  朝倉令  2006-05-22投稿


『お祭りなんて、何十年ぶりかなぁ♪』



紺地に花柄の浴衣を着た薫の肩口や胸元から、時折ヒョコッと顔を出しながら、咲季がはしゃいでいた。



こんな所はやはり子供で、可愛いなぁと思ってしまうのだ。



「う〜っ、何でこの!この金魚さん取れないのよっ」


「あー、ダメダメ、こういうのはね、……ほら」


『お兄さん上手ーっ』



柄の部分で引っ掛け、お目当ての大物を獲得すると薫のご機嫌も良くなった。




『あ、これ可愛い〜っ』



咲季がご執心なのは、羽を広げた蝶をあしらったデザインの、小さなブローチ。



僕がそれを買ってあげると少女の幽霊は大喜びしていた。






『ながい間、お世話になりました。 あたし、きっと、ふたりの事おぼえているから……』


「生まれ変わっても、そのままの咲季ちゃんでいて頂戴ね」


「じゃあ、幸せになるんだよ…」



今日が咲季とのお別れの日だった。



咲季が最後に演奏してくれたのは、ショパンの【エチュード】(別れの曲)



悲しい程に美しいメロディーは、咲季の流した真珠の涙を思い起こさせた。






   一年後



「可愛らしい女のお子さんですよ」



看護婦さんの笑顔に見送られ、薫の元へ急ぐ。


結婚七年目にして初めて僕らが授かった新しい生命であった。




「薫、よくやった。 よくぞ母子共に無事でいてくれたよ…」




「あなた、……これ見て」


妻の薫が不思議なほど透明感のある笑顔で差し出したものを、僕は受け取った。



「まさか、これ……」



「この子がずうっと握ってたんだって…… お帰りって言ってあげたらどう?」





薫に手渡されたものは、夜店で咲季に買ってあげた蝶のブローチであった。






おわり

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