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星の蒼さは 92

[461]  金太郎  2008-07-08投稿
「吟次が月軍に…?」

「はい」

「そう…」

ガラスの向こうのハルとアキから目を離さず滝川は言った。

「驚かれないので?」

「勿論、驚いてるわ」

なぜかそれ程意外でもない。

「容赦無く斬り掛かって来ました。太刀筋も、立ち回りも奴そのもの。……少々ショックが大きすぎる……まさか…」

「一番、月と地球双方の平和を願っていたあの吟次がまさか…ってところかしら?」

「はい、とても信じらない。地球を裏切った月に付くなんてッ!!」

右の拳をガラス窓に打ち付け、狩野は吐きつけた。

「そうかしら……」

ガラスの向こうのベッドの脇に飾ってある白い百合を見ながら滝川は呟いた。

「本当に裏切ったのは私達地球じゃないかしら」

「え?」

「月はエネルギー不足に喘いでいた。それを助けようともしないで、挙句交渉に来た二十ニ歳の女性を撃ち殺す。無理矢理あんな月みたいな不毛の石の塊になんか追いやっておいて……私達無責任じゃなかったかしら」

レイチュル・ケネディを殺害したのはアメリカの某諜報機関であるというのは、もう公然の秘密である。(これを認める事は断じて出来ない事であるが)一方的だったのは地球であると、きっと後世の歴史家達は批判するであろう。

「艦長…」

「仕方なかったのよ、きっと。彼なりの事情があった…それでいいじゃない?」

が、滝川はこの一言を忘れはしなかった。

「今は敵だとしても…ね」

滝川は支給品の懐中時計に貼ったプリクラ写真を見ながら寂しげに語り終えた。

滝川恵美、狩野京一、二ノ宮吟次、西沢優子、そして一つ年下のあおかぜ副艦長である荒木清太。

五人もの大人が酔った勢いでゲームセンターのプリクラに写る。

馬鹿野郎!!

と、翌日教官に怒鳴られたのも二日酔いで覚えていないが……

一番楽しかった時期だった。

「まだ、持ってらしたんですか」

狩野は拳銃のホルスターに貼ってあったはずだ。

「懐かしいわ」

「そうですね」

滝川は周りに誰もいないのを確かめて言った。

「京一。その言葉使い、今は止めにしない?」

「え?あぁ、そうだな、恵美」

エリア0は軍事施設ではない。構わないだろう。

滝川はもう少し前の話をしようと思った。
が、ドアが勢いよく開いて下士官が吹っ飛んで来るのが先だった。

「ち、中国が対米宣戦布告をしました!!」


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