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井上の憂鬱外伝

[627]  坂崎金太  2008-07-12投稿
七月になって、暑さが増した。
セミの鳴き声が暑さをさらに引き上げる。
「あちぃ〜こりゃ溶けて当然だな」
もっとも、溶けた経験は無いが。
何気なくテレビをつけた。日曜日の朝はニュースばかりだ。
「東京のヒートアイランド現象は、今年も働く人々にかなりの影響があると見られ、熱中症対策についても念入りに――」
東京か……
東京には、井上がいる。
井上は俺の後輩で弟だ。いや、弟で後輩だ。……どっちでもいいや。
あいつは東大に受かった天才だ。だが、馬鹿なんだ。
ファーストフード店の遊具で寝転がったり、子供と一緒になって遊具で遊んだり、突然大学の教師になるなんて言い出したり。
「そういえば最近ファーストフード店に行ってないな」
あいつがいなくなってから、何だかつまらないのだ。
元気にしてっかな、井上。ギャグも無いから笑いも取れない。
「何か面白いことねえかな――ッ!?」
硬直。
俺の視線の先には、テレビ。
そしてその画面には、
「えーここ秋葉原にはですね、たくさんの電化製品が……あの、あなたは一体……!?」
テレビに映ろうと必死な井上の姿が。
「は……はは、ハハハ!アハハハハハハ!」
いるよ、井上。むっちゃ元気だよ。うわあ連れてかれた……あっ殴った。まだテレビに映ろうとしてる。ん?なんか言ってる?井上……?自分、じゃない、お前……俺?
井上は、確かに叫んだ。
確かに俺に言った。
「俺は元気だ!頑張ってるからな!お前も頑張れ!井上ー!!」
ヤバい、こらえきれない。
笑い出したら止まらないぜ、こりゃあ。
……とりあえず、お前が捕まらないように祈っておくよ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」
笑いが止まってからな。
それから、久しぶりに行ってみるか、ファーストフード店に。


井上は、俺の知人で後輩で弟で、かなり馬鹿な東大生だ。

外伝 完

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