夜より暗いもの
涙さえでなかった。私の心はまるでぽっかり穴があいたみたいになって、「このまま私はどこへ行くんだろ」とこの状況に似合わないことを能天気に思った。
「そういうわけだから、今までありがとう陽子」
「弘樹待って、私別れたくない」
すがるような気持ちで声をかけると、困った顔をした弘樹から見つめられた。正直、こんな顔をされるなんて思わなかったから、胸が苦しい。というか胃が痛い。
「ごめん」
最後に聞いた弘樹の言葉は、このたった三文字。
半分信じられないのと半分信じたくないのとで、もう一度「弘樹」と呼びかける。けれど弘樹は無言のまま私の車を降りて、マンションの方へ歩いていった。弘樹が二階にある自分の部屋に入ってしまうと、やっと涙がこみ上げた。
夜のせいだろうか。辺りが暗い分、思考がマイナスになるものだ。
このまま私はどこへ行くのか今はまだ分からない。
弘樹との思い出を思い出すことしかできない。
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