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Doll〜薔薇は灰になる〜最終章1

[384]  ゆうこ  2008-07-28投稿

乙部美樹は来た時と同じワンピースを着て、颯爽とメイド達を見向きもせずに横切っていった。

メイド頭の胡散臭げな瞳を背中に感じながら。

美樹がその手に持っているのは上等のトランクで…中身は自らの履歴書とぎっしり詰まった現金だった。
重たいはずの鞄だが、美樹にとっては羽にも等しい。

とうとう長年かけた計画が成功したのだ。

美樹は屋敷を飛び出ると美しい顔にそぐわない野卑とも言える笑みを見せた。

そう…うまくいった。
ありがとう、マリア…。

藤堂はマリアを殺したと思っていた。
実際、あの時マリアは瀕死だったのだ。

あの男は私につけられているとも知らず、そのうえマリアを放置した…彼は捕まってしかるべきだったのだ。
だけど…私は…私はそうしたくなかった。
彼は、藤堂は私など覚えてはいなかったが…私は彼が好きだったから。

私はマリアの友達だったそれだけで彼にとって辛うじて特別だったにすぎない。
こんな田舎町で、年が離れているとはいえ、彼は一際洗練されていて…素敵だった。
一言一言に知性が滲み、優しい笑みに私はみせられていたのだ。
そして、彼が…12になったばかりの私の友達をこそ愛していると気付いた時のみじめさを、私は今も忘れてはいなかった
マリアはいつもいつも光り輝いていた。
貧しくともそれはマリアの煌めきを損ないはしなかった。

藤堂はよく私相手にマリアの事を聞いていた。
その目は熱く、たぎっていたのに、すぐ側にいる私に向けられた事はなかった。

私はマリアと藤堂の後をしょっちゅうつけていた…何かを期待していたわけじゃない。
単なる子供じみた嫉妬だ
目の前で倒れているマリアを見た瞬間、理不尽にもマリアに対しての言いようのない殺意が湧いた…私の彼に愛され、殺されようとしているマリア
私は微かに息のある彼女を持っていたハンカチで口を塞いだ。
そして神社の床下へ押し込み…一度引き上げた。
私は家にあった灯油をビール瓶に入れ、ライターを持ち出し…意識のない彼女の回りにふりかけ…ライターを放った。

パアッと燃え上がった炎に怖じける事もなく、私はすぐさま走った。
走って走って家につき、油くささをなくす為、何度も何度も手を洗った。

神社は全焼し、勿論、マリアは完全に消えてしまった。

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