プロポーズ
彼しかいない。理子はそう思った。特別なことがあった訳ではない。彼との日常を重ねるたびに、確信を深めていった。
いつものように、彼が帰って来る。疲れを感じさせない笑顔を浮かべ、ただいま、と言う。理子はそれが好きだった。
「もうすぐ誕生日だね、何が欲しい」
遅い夕食を食べながら、彼が訊ねる。理子の誕生日は二週間後だった。理子はそれさえ忘れていたが、瞬時にこれを利用しようと考えた。
婚約指輪、と理子は答えた。理子は彼が言い出すのを待てなかった。
「婚約指輪が欲しい、安いのでいいから」
彼の表情が曇る。
流石にまずかったかなと理子は少し後悔した。やはりプロポーズなんて女からするものではなかった、と。
しかし、彼は少し考えると、わかったと答える。
「いいの」
理子はそう訊いた。彼はいいよ、結婚しようと答える。
「もう少し考えてよ」
理子は何となく不安になってそう言った。
「理子がそうしたいならそうしようよ」
軽々しくそう言う彼に不安は更に増した。
「大丈夫なの、結婚だよ、結婚するんだよ、簡単じゃないのよ、結婚って」
何が簡単じゃないのか知らないが、理子はそう言った。
「何だよ、結婚したくないのかよ」
そうじゃないけど、と返すが、語尾は細くなった。
「あなたがどう思っているかが知りたい」
自分の独りよがりで結婚などしたくないと理子は思った。
前からずっと思っていたんだけど、と彼は前置きをしてこう言う。
「俺は理子の好きなようにしたい」
理子はそれが理解出来なかった。確かに彼は理子のやり方に今まで口を出さなかった。理子にとってそれは楽ではあったし、彼のそんな部分に魅力を感じていた。だが今回は、自分の判断だけでは不安な面が沢山あった。
「私は相談したいの、あなたの考えを聞きたいの、私のしたいようにさせてくれる気持ちは嬉しいけど、それが本当にいいことだとあなたが思っているか聞きたいの。こういうことって二人で決めることでしょう」
早口に理子がそう言うと、彼はこう返す。
「俺は理子がそう思うなら、その方がいいって言ってるじゃないか」
「じゃあ私が別れたいって言ったら別れるの」
つい言葉を荒げ、理子はそう言った。彼は悲しげな顔になり、苦しげに理子が幸せなら、とだけ言う。理子は少し後悔したが、やはり不安は取り払えなかった。
翌朝、理子は部屋を後にした。
いつものように、彼が帰って来る。疲れを感じさせない笑顔を浮かべ、ただいま、と言う。理子はそれが好きだった。
「もうすぐ誕生日だね、何が欲しい」
遅い夕食を食べながら、彼が訊ねる。理子の誕生日は二週間後だった。理子はそれさえ忘れていたが、瞬時にこれを利用しようと考えた。
婚約指輪、と理子は答えた。理子は彼が言い出すのを待てなかった。
「婚約指輪が欲しい、安いのでいいから」
彼の表情が曇る。
流石にまずかったかなと理子は少し後悔した。やはりプロポーズなんて女からするものではなかった、と。
しかし、彼は少し考えると、わかったと答える。
「いいの」
理子はそう訊いた。彼はいいよ、結婚しようと答える。
「もう少し考えてよ」
理子は何となく不安になってそう言った。
「理子がそうしたいならそうしようよ」
軽々しくそう言う彼に不安は更に増した。
「大丈夫なの、結婚だよ、結婚するんだよ、簡単じゃないのよ、結婚って」
何が簡単じゃないのか知らないが、理子はそう言った。
「何だよ、結婚したくないのかよ」
そうじゃないけど、と返すが、語尾は細くなった。
「あなたがどう思っているかが知りたい」
自分の独りよがりで結婚などしたくないと理子は思った。
前からずっと思っていたんだけど、と彼は前置きをしてこう言う。
「俺は理子の好きなようにしたい」
理子はそれが理解出来なかった。確かに彼は理子のやり方に今まで口を出さなかった。理子にとってそれは楽ではあったし、彼のそんな部分に魅力を感じていた。だが今回は、自分の判断だけでは不安な面が沢山あった。
「私は相談したいの、あなたの考えを聞きたいの、私のしたいようにさせてくれる気持ちは嬉しいけど、それが本当にいいことだとあなたが思っているか聞きたいの。こういうことって二人で決めることでしょう」
早口に理子がそう言うと、彼はこう返す。
「俺は理子がそう思うなら、その方がいいって言ってるじゃないか」
「じゃあ私が別れたいって言ったら別れるの」
つい言葉を荒げ、理子はそう言った。彼は悲しげな顔になり、苦しげに理子が幸せなら、とだけ言う。理子は少し後悔したが、やはり不安は取り払えなかった。
翌朝、理子は部屋を後にした。
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