携帯小説!(PC版)

蝉の音?

[266]  ITSUKI  2008-08-25投稿
「今までありがとうございました」
息子はそう言って出て行った。佑子は涙も出なければ、息子にすがりつくことも出来なかった。
扉が閉まる音が聞こえ、鉄の脆い階段がたてるカンカンという音が聞こえた。音が止み、蝉の鳴き声が聞こえる。窓の外を見ると、林が日に照らされ、きらきらと緑色に輝いていた。佑子はじっとりと汗ばむのを肌に感じた。
遂に蝉の鳴き声も止むと、佑子は卓袱台に突っ伏して泣いた。子どもの様に、叫ぶ様にむせび泣いた。
彼女は、実の息子に我が子を奪われた。
彼女には三人の息子がいた。全員、父親が違い、どの父親も彼女と子どもの元から離れていった。
長男は今年、高校を卒業し、優秀な成績が幸いし、高卒ながら歴史ある大手企業に就職した。次男は中学に入ったばかりで、三男は来月で五歳になる。
三人を支える為、佑子は夜の仕事をし、更に長男のバイト代も足しにして、生活をしていた。
しかし今年のはじめ、佑子は長年勤めていた店から解雇された。酒に酔い、客と一夜を過ごしてしまったのだ。それを客の妻に目撃され、訴訟を起こされた。示談に持ち込んだが、慰謝料は店を辞めた佑子に払える金額ではなかった。現在も支払いは続いている。
佑子は酒に溺れた。その間、長男のバイト代だけで生活することを余儀無くされ、長男と佑子は毎晩のように口論となり、関係はどんどん悪化した。
長男の仕事が安定し、夏の休暇に入ると同時に、長男は二人の弟を連れ、三人で暮らすと言い出した。二人の弟ももう説得済みのようだった。
佑子はもう何も言えなかった。まだ成人していない子ども達を手離す結果を招いてしまった自分に苛立ち、更に酒を飲んだ。酒も尽き、長男の財布に手を伸ばしたが、次男に見つかり、取り上げられた。その時に次男が見せた蔑称に満ちた目を、彼女は忘れられない。その時改めて、自分は堕ちる所まで堕ちたのだなと実感した。

-?へ続く-

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