摩天楼 その1
狭い夜空には指先で穴を空けたような月と街の光の筋しか見えない。
積木を乱雑に積み上げ並べたような街だった。
生き急ぐように車は過ぎ去る。
三人の浮浪者が弁当屋の裏のごみ箱を漁っている。賞味期限の切れた弁当が幾つか出てきた。
「悪くないな。天ぷらがあればなお良いんだけど」
ニット帽の男が舌打ちした。
「今日のはわりかしいいね」
金髪を束ねた女が弁当を抱える。もう一人のレインコートの浮浪者は弁当には見向きもせずに高いビルを見上げていた。
「見つかってどやされないうちにとっとと退散しようや」
促したがなかなか動こうとしない。ニット帽が駆け寄った。
「ビルがどうかした?」
レインコートがビルを凝視しているので、彼もまた見上げてみる。レインコートはやっと口を開いた。
「簡単に踏み殺されそうだ」
不気味なビルは、街中から取り残されたような小さな影を見下ろしていた。
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