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「ねえねえ」
ぼんやりした声だが確かに聞こえる。体をかすかに揺さぶられているのも分かってる。それでも目を開かないのは睡魔が強すぎるからだ。それに、人一倍よく寝る人生をおくってきたつもりだが、こんなに気持ちのいい眠りは感じたことがなかった。睡魔がどうのというよりも本当はただこの居心地の良さから離れたくないだけかもしれない。
うっとりした気分だったが今度は強く揺さぶられた。ねえと呼ぶ声もしっかり耳に入ってくる。聞けば聞くほど相手が知らない人間だということが分かる。だからといって特に驚かないし焦ったりもしない。知らない誰かに起こされるのなんて慣れっこだ。図太いと言う人もいるが、幼い頃から通院し続ければいやでも慣れる。試しに2週間でも1ヶ月でも入院してみればいい。そうすれば寝顔を観察されていようが、寝言を聞かれていようがどうだってよくなる。
ふと昔の意地っ張りな自分が現れたようだった。懐かしい。強気なあの頃の自分はまだ健在らしい。今はなすがまま、されるがままで自我なんてどっかに行ったと思ってたけど。夢の中だからか、最近体の調子がいいからか、どちらにしても元気な昔の自分を久しぶりに感じられたのは嬉しかった。でも、と思った。もういい加減起きなきゃ。すっと今の私が戻ってきて、そしていさぎよく夢心地から目覚めた。
「ああっ、やあっと起きた。死んでるのかと思った」
目を開けて、あまりのことに閉口した。
それは初対面への口の聞き方にしてはひどすぎるとか、通院者にたいするタブーともいうべき言葉じゃないかとか、そんなんじゃない。
私がいたそこは病院でもなければ家でもない。学校で倒れたのかと思えば、そこは部屋ですらなかった。
一面、視界いっぱいに広がるのは、テレビで見るようなそれは壮大な大草原だったのだ。
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