摩天楼 その4
そんな物騒な町にわざわざ入ってくる人は滅多にない。ましてや、若い女の子が入ってくるわけがない。
次の日、世間では市長の話で持ちきりだった。市長の娘と金庫にあった現金が消えたらしい。ワイドショーや新聞でも大きく取り上げられて大騒ぎになっていた。
娘は有名な女子校の生徒で、学校にもやはりマスコミは押し掛けた。
会見に出てきた市長はいつもの威張ったような態度とは違い、真っ青な顔色だった。
「ヒオ、ラジオ付けろ」
拾ってきた新聞を広げてゲラゲラ笑っていた連中がニット帽のヒオに言った。
ヒオは持っていたラジオの電源を入れる。丁度市長の会見の様子が流れ始めたところだった。
ノイズがひどかったが、聴いたことのない貧弱な声をしているのは丸わかりだった。一斉に吹き出した。「ざまあみろだ!」
「同じ奴だと思えない」
その時古びたアパートの窓から「朝っぱらから騒がしいよジンザ!」と、いう老婆の怒声とともにバケツが降ってきた。
バケツは連中のリーダー格のジンザの頭に当たることなく巧く被さった。
綺麗に被さったので皆思わず老婆に拍手を送った。
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